むかしむかしのお話――

 ある王国に、見目麗しい一人の王子様がいました。
 王子様は女性の憧れの的でした。
 国中の女性達が王子様に恋をしていると言っても過言ではありません。
 
 そんな王子様はある日、一人の少女と恋に落ちました。

 恋のお相手は、それはそれは美しい娘でした。

 王子様が一目で恋に落ちた少女は、町娘。
 とても王子様の花嫁にはなれない身分でした。

 しかも王子様には公爵令嬢という婚約者がいたのです。

 幼い頃に結ばれた婚約には王子様の意志はありません。
 政略的な意味合いしかない婚約でしたが、その昔、王国に感染症が広がった事で色々と不都合が生じたが故のものだったのです。
 諸外国に付け入られないために、王子様には、血筋、家柄、財力の全てを兼ね備えた公爵令嬢を婚約者としてあてがわれていました。

 国のために、そして次期国王としての責任と恋心に揺れる王子様でしたが、国の状況を理解していたため愛を取る事はできなかったのです。

 焦がれる恋心に蓋をしますが、ふとした瞬間に蓋が外れてしまう時もありました。

 忘れようとしても忘れられないのが恋。
 諦めようとしても諦めきれないのが恋。

 王子様だけではありません。
 少女もまた王子様に恋をしていたのです。

 少女は、恋する相手に婚約者がいる事に大変悲しみました。
 少女と仲の良い犬は可哀想に思い、「王子様と会えるようにしてあげる」と言いました。少女は犬の助けを借りて王子様と会うことができるようになりました。そうして二人は秘かに愛を育んでいったのです。
 


 そんなある日、公爵令嬢は微笑みながら王子様に言いました。

「王子様は本当に愛する方を見つけられたのですね。それならば、私は潔く身を引かせていただきますわ」

 そう宣言したのです。

 王子様は公爵令嬢の言葉に驚きました。

 まさか婚約者である公爵令嬢からそんな言葉を聞くとは思いもしなかったのです。
 それもそのはず。
 二人の婚約は国が定めたもの。


「王子様、愛する方と一緒になること以上の幸せがあるでしょうか?お二人が愛し合っている事は周知の事実です。お二人が一緒になる事を望んでいる方々は多いですわ。お二人ならどんな困難も乗り越えていかれる筈ですわ」

 公爵令嬢は二人の仲を認め応援すると言うのです。
 婚約者からそんな事を言われるとは思わなかった王子様は動揺してしまいました。
 しかし愛する少女と生涯を供にできると考えると、戸惑いよりも嬉しさが勝りました。一刻も早く愛しい少女と結婚がしたかったからです。

 
 王子様と公爵令嬢の婚約は無かった事になりました。
 だからといって、平民の少女が王子様の婚約者になれる筈がありません。
 
 そして王子様の新しい婚約者を決める舞踏会が開かれました。
 盛大な舞踏会を催す目的は王子様の花嫁を選ぶ事。
 国中の貴族が招かれました。


「私も行きたいわ」

 少女は言います。

「あら、貴女は平民でしょう?舞踏会には行けないわよ」

 一人の貴族の娘が少女に答えます。

「舞踏会に行くドレスも靴も持ってないでしょう?それに貴女、踊れないのでは?」

 別の貴族の娘が少女に疑問を投げかけます。

「そもそも招待状がなければお城には行けないわ」

 更に別の貴族の娘が追い打ちをかけました。

 貴族の娘達は美しく着飾ってお城へ行ってしまいました。

 一人残された少女は泣き崩れてしまいます。
 すると、そこに白い鳥がお城の招待状を持ってきてくれました。
 
 白い鳥は言います。
 
「これで君も舞踏会に行けるよ」

 それに対して少女は答えます。

「でも私にはドレスも靴もないわ」

 少女の言葉に応えるようにリス達がドレスや靴、そしてアクセサリーを次々と運んできてくれました。

 少女は喜びました。
 これで舞踏会に行けるのですから。

 美しく着飾った少女は急いでお城に行きました。

 少女の姿を見た王子様は、すぐに少女の元に駆け寄り一緒に踊り始めました。

 そして王子様は「彼女は僕の妻になる女性だ」と宣言なさいました。
 
 
 宣言後、王子様は国王夫妻や大臣から様々な忠告を受けました。

 一部の貴族から猛反対の声が上がったり、一部の国民から批判を受けたりと様々な出来事が起こりましたが数年後、無事に愛する少女をお妃()に迎え入れる事ができたのです。

 王国中が王子様とお妃様の結婚を祝いました。

 それから二人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。

 めでたしめでたし――――