そっと盗み見た本郷先輩は、私達の会話には興味が無さそうに大きく伸びをして、首をコキって鳴らした。

「先輩のお父様、理事長だったんですか」

「そうよ」

先輩に聞こえないようにコソコソ喋ったのに、鈴城さんがいつものトーンで楽しそうに答えた。

「じゃあこの依頼って…」

「理事長から流れてくるの」

「なんでですか?」

「カナデのお父様はね、とっても立派な方なの。それからちょっと神経質なのよね」

「お前と一緒だな」

「ちょっと…!」

聞いてないって思っていたのに、本郷先輩はしっかり聞いていたらしい。
私が神経質とか、まだ初日のこと根に持ってたの!

「理事長は自分の学園に少しでも歪みがあると許せないの」

「まぁ…経営者としてはそうかもしれませんね」

「それで、職員室に目安箱を置いたのよ」

「そんな物、ありましたっけ?」

「教頭の机のそばよ。私とカナデが入学した年から始まったの。どんなに些細なことでもいいから悩みや不正を見つけたら報告してくださいって。最初は先生達が対処してたんだけど、カナデが生徒会員になってからは生徒会の仕事になったの」

「なんで?」

「ご子息の為よ」

「ご子息って…」

「そう。カナデの為。この慈善事業を続けていれば先生達も実際大助かりなわけじゃない?めんどうな仕事を請け負ってもらえるわけだし。だからカナデが何をしても口出しはできないし、会長に就任することも誰も反対はできない。大学への進学にも有利だし。お父様は立派な経営者で、偉大な支配者なの」

「じゃあみんな生徒会がやってるって知ってるんですか?」

「知らないわよ。先生達が解決してくれてるって思ってる。外部の人達も不思議がってはいるけど、自分の問題が解決できるならなんだっていいんじゃないかな」

「本郷先輩はそんなことしなくても元々支持されてるのに。必要なんですか?」

「ここは俺だけの生徒会じゃねーだろ」

「え?」