「なに、まだ忘れてないわけ?」

「悠太のことですか?それなら忘れました。でもそういう場所に行くとね、思い出したら嫌じゃないですか」

「…あっそ」

「あの、カナデ…くん…」

「ん?」

「私のこと、避けてますよね?」

「避けてる?なんで?」

「絶対避けてるでしょ?そうじゃないならなんで…前みたいに全然触ってこないの?」

会長席に座っていたカナデくんは立ち上がって、私のほうへ回ってきた。

首筋を人差し指でツーッと撫でられて、ゾクゾクっとしたものが体中に走る。

じれったい…。

カラダはカナデくんの熱を覚えている。

「シテ欲しいならそう言えばいいのに」

「そんなこと…!」

「違うんだ?じゃあいいけど」

「なんで…なんでそんなに余裕そうなんですか!?私のこと好きだって言ったくせに!もう飽きちゃったんだ…」

「ね、砂雪?」

「なんですか」

そっぽを向いて不貞腐れる私の首の後ろに手を回して、カナデくんは私の顔を覗き込んだ。

「何するんですか!」

「お前さぁ、さっきから俺のこと大好きーって言ってるみたいに聞こえるんだけど?」

「…」

「なーんだ、勘違いかー」

「カナデくん!」

「わ。なに?」

何かが自分の中でハジけた気がした。

焦らされた挙句のカナデくんの熱。

挑発する言葉とカナデくんの香り。

今までの、鈴城さんとおんなじ香りじゃない。

香水とか、作られた匂いでもないって思った。

初めてカナデくんの香りをちゃんと感じた気がして、頭がクラっとした。

そしたらもう、カナデくんの両肩を掴んで、私は大声を出していた。