「あの…」

「ん?」

「鈴城さんって本郷先輩のことが好きなんですか?」

「好きよ」

「恋愛対象として?」

「私、男性としてカナデが好きよ」

初対面の人に自己紹介する時みたいに、自分の名前なんか分かりきってるって、当たり前のことみたいに、鈴城さんは本郷先輩が好きだって言った。

その目は真っ直ぐで、悠太を好きだった頃の私とは全然違う。

「お二人は付き合ってるんだと思ってました」

「酷い勘違いするのね」

「ごめんなさい…」

「なんでそう思ったの?」

「同じ香りがするからです」

「香り?」

「お二人は同じ香りがします。だから…」

「ふふ。私、砂雪ちゃんにスキンシップ多いもんね。でもそれってカナデともいっぱいくっついてるから気づいたって言ってるようなもんだよ?」

「ッ…嗅覚がいい人なら気づくと思います」

「砂雪ちゃんは、いいの?」

「普通…です…」

「砂雪ちゃんの嘘がつけないとこ、好きよ」

「だからその…お付き合いしてるんだって思ってて…なのに本郷先輩が私に…いろいろしてくるから意味わかんないって思ってたんです」

鈴城さんが立ち上がって、私達の向かい側に置いていた鞄を持ってきた。

鞄の中から鈴城さんは小瓶を取り出した。

そして私の手を取って、手首にシュッと一回プッシュした。

辺りには鈴城さんと、本郷先輩と同じ香りが漂った。