「先輩」

「んー?」

「なんか甘いにおいがする」

いつもの香水の香りじゃない。
もっと甘い、フルーツみたいなにおい。

「これ?」

先輩がべ、って舌を出した。
真ん中に赤くて丸いあめ玉が乗っている。

「いちご味」

舌を引っ込めた先輩がニコッて笑った。
見たことの無い、無邪気な笑顔だった。

「けっこう真剣な話してたつもりなんですけど、あめなんて舐めてたんですか?」

「お前がいきなり来たんだろ」

「あめ、長持ちですね」

「ずっとここに隠してた」

口の中であめを移動させた先輩の頬が丸くぽこって膨らんだ。
ちょっと可愛いって思ってしまった。

「はー…あーあ!私にもください。なんか甘いの欲しいです」

「もっかい言って?」

「え?」

「あめ、欲しいんだろ?」

「あめください?」

「はい」

躊躇なくキスしてきた先輩の口から、いちご味のあめ玉がころんって私の口に入ってきた。

「何するんですか!」

「お前が甘いの欲しいって言ったんじゃん」

「こういうことじゃなくて!」

「口移しは内緒ね?」

「なんでですか?」

「いーから。こういうことすんのは二人だけの内緒」

「一応体裁とか気にするんですね」

「別に気にしてない。砂雪がえろいこと誰にも知られたくないだけ」

「はぁ!?」

もう本当に意味不明!
いい人なんだって思い始めた私が間違ってたかもしれない!