今日はわたしのうちに、お兄ちゃんの親友の成《なる》くんが、夕御飯を食べに来ます。

 お兄ちゃんの昔からの友達が、今は私の高校の担任の先生なんです。

 びっくりでしょ?

 みんなには内緒にしてるの。
 説明がちょっぴり面倒なのと、私、成くんと二人だけの秘密にしたかったから。

 私とお兄ちゃんとは8コも年が離れてる。
 だから、必然的に成くん、土井成仁《どいなるひと》《《先生》》とも8コ差なんだ。

「成《なる》くん、いらっしゃい」
「お邪魔します」

 お兄ちゃんは夕飯の買い出しに出掛けていた。
 私は成《なる》くんと話したかったから、家に残っていた。

 うちは両親が早くに亡くなってしまい、それからずっとお兄ちゃんが私の面倒を見てくれている。

 あと……、いつも遊びに来る成《なる》くんが、私が小学生の時から勉強を見てくれるんだ。

「……成《なる》くん」
「ほら、香菜の好きなフルーツタルト買って来た。勉強したらご褒美に食べて良いぞ」
「ありがとう」
「今日は古文をやるか。苦手だろ?」

 成くんはいつもと変わらない笑顔。いつもみたいに私の部屋で勉強を見てくれる。

『――私、成《なる》くんが好きなの』

 私は、もうずいぶん前に彼に告白してる。
 びっくりした成くんの顔、その後照れた。
 ――返事は……。

「香菜、早く大人になれよ」
「それって……」
「待ってるから」

 手が震えた。
 シャーペンが上手く握れない。

 成くんから言って貰えたこと、思い出すと嬉しくてたまらないよ。

 期待して、良いんだよね?
 ――成くん。

 いつもと変わらない成くんの態度、私はいつにも増してドキドキしているのに。

「あんまりこっち見つめないでくれるか? ……照れる」
「あっ、私、ずっと見てた?」
「……うん、見てるよ。学校では気をつけてな! はい、香菜はノートと参考書の方を見て! 良い子の香菜は問題を解こうな〜」
「……なんかイジワル」
「なっ! な、なんで俺が意地悪なんだよ。香菜に見つめられると我慢が出来なくなっちゃうかもだろ。理性がぶっ飛んだらどうしてくれるんだ……」
「成くんっ」
「うわっ」

 私、成くんに抱きついてしまった。
 二人して、そのままじっとしてる。
 甘い沈黙が心地良い。

「……反則だぞ、コレ」
「ちょっとだけ。ねっ、土井先生」
「仕方ねえなあ。なあ、プライベートでは『成くん』って呼べよな。香菜」
「わざとだもん」
「はいはい分かってます。木根さん」
「あー! 成くんだって苗字で呼んだじゃん」

 冗談を言い合いながらも、くっついたままの私と成くん。

 成くんって、あったかい……。

 私達はお兄ちゃんの邪魔が入るまで、そうしてくっついていた。

 付き合うとかキスとかないけど、私は満たされた気持ちだった。