「ちちうえ、はなせ! ははうえっ、ははうえ〜!」
「あぶっ、ばぶぶーっ!」
「こら、暴れるな」

 紫紺が黒緋の抱っこから飛び降りようとし、青藍も小さな手で黒緋の顔をぐいぐいしている。
 黒緋は二人の息子を宥めつつも助けを求めるように鶯を見た。
 そんな黒緋に鶯は小さく笑い、二人の息子に向かって両腕を広げる。

「黒緋様、ありがとうございます。紫紺、青藍、こちらへ」
「ははうえ!」

 紫紺がぴょんっと飛び降りて鶯に駆け寄った。
 青藍も抱っこから降ろしてもらうとハイハイで鶯のところへ。

「ははうえ、オレも! オレもぎゅってしろ!」
「あいっ! あいっ!」

 紫紺が鶯にぎゅーっと抱きつくと、青藍も抱っこしろとばかりに両手を差し出す。
 鶯は青藍を膝に抱っこし、もう片方の腕で紫紺を抱き寄せた。

「ふふふ、焼きもちですか? かわいいですね」
「だって……」
「いいですよ。可愛い焼きもちは大歓迎です」

 鶯は楽しそうに笑った。
 萌黄も紫紺と青藍の無邪気な様子に優しく目を細めると、改めて天帝の黒緋に向き直った。
 そして床に両手をついて頭を下げる。

「天帝におかれましてはご機嫌麗しく。こうしてまたお会いできて光栄です」
「萌黄も元気にしていたか?」
「はい」
「息災のようでなによりだ。顔を上げろ」
(おそ)れ多いことでございます」
「……相変わらずだな」

 黒緋が少し困ったように言った。
 でも萌黄は首を横に振る。

「私が人間であることに変わりはありません。礼を尽くすことは当たり前のことでございます」

 萌黄は斎王である。
 だからこそ天帝と天妃が特別な存在であることも、その存在の尊さを誰よりも知っていた。
 しかし(かしこ)まる萌黄に鶯が寂しそうに目を伏せる。
 そんな鶯に黒緋は気づいて苦笑した。鶯の寂しそうな顔は黒緋に効くのである。

「ならば命じる。お前は天妃の妹として振る舞え」
「それは……」
「許す。お前は人間でも天妃の妹だ。あまり(かしこ)まられては俺が困るんだ」
「困るとは……」

 萌黄は顔を上げて黒緋を見た。
 すると黒緋は心配そうに鶯を見ていたのだ。
 その光景を見てしまったら萌黄も頷くしかない。でなければかえって天帝と天妃を困らせて、それこそが無礼というもの。

(かしこ)まりました。天妃様のために」
「ああ。頼むぞ」

 黒緋が安心したように頷いた。
 鶯も嬉しそうな顔で抱っこしている紫紺と青藍に言う。