「萌黄、萌黄、泣かないでください」
「うわああああんっ、わあああああん!」

 鶯が慰めたが萌黄は首を横に振って泣き続けた。
 もう会えないと思っていた人が目の前にいるのだ。そして萌黄を抱きしめてくれている。
 このぬくもりに(すが)るようにしがみつき、子どものように泣きじゃくった。

「萌黄、顔を上げてください。私にあなたの顔を見せてください」

 鶯にお願いされて、萌黄がおずおずと顔を上げた。
 すると鶯に見つめられて萌黄の瞳に新たな涙が浮かぶ。
 でも泣いてしまう前に鶯が袖で萌黄の涙を拭った。

「ああそんなに泣いて。目が赤くなってしまいますよ?」
「うぅ、鶯の、せいだよ。鶯にもう会えないんだと思ってたからっ……。ぐすっ」
「萌黄……」

 萌黄が嗚咽交じりにそう言うと鶯が目を丸めた。
 でも目を伏せて、その両腕に萌黄をきつく抱きしめる。

「そうですよね、不安にさせましたよね。ごめんなさい。私、そんなことも気づきませんでした」
「鶯……?」
「私、天上に行ってからもいつもあなたを思っていました。毎日あなたを見守っていました。だから離れていてもあなたを身近に感じていたんです。あなたはそうではなかったというのに……。ごめんなさい、不安にさせました」
「なにそれ……、もう、鶯……っ。ぐすっ」

 萌黄が甘えるように鶯の肩に顔をうずめた。
 鶯は頬を寄せて萌黄の長い黒髪を撫でる。

「もう泣かないでくださいね。よしよししてあげますから」
「うん」

 小さく頷いた萌黄を鶯はよしよしした。
 二人は伊勢の片隅で生まれてからずっと助け合って生きてきたのである。双子の姉の鶯は妹の萌黄をたいそう可愛がり、幼い頃からよしよししてあげていた。
 それは微笑ましい姉妹の光景であるが。

「……そろそろ俺たちのことも思い出してほしいんだが」

 黒緋が少し呆れた顔で口を開いた。
 黒緋は右腕に紫紺を抱っこし、左腕に青藍を抱っこしている。二人の幼い息子が鶯と萌黄の再会を邪魔しに行かないように抱っこで阻止してくれていたのだ。
 二人の息子は母上が大好きなので(すき)あらば側に行こうとするのである。