トップアイドルの恋 Season2〜想いを遂げるその日まで〜【書籍化】

「男の名前は、梨本(なしもと)一幸、23歳。無職。去年就職活動で津田不動産の採用試験を受けていた。最終面接までいったが、意気込みを話している途中で社長があくびをしながら、「話が長い、不採用」と言ったことに腹を立てて根に持っていたらしい。他の企業もことごとく不採用になり、ますます津田社長に恨みを募らせていった経緯がSNSに書き込まれていた」

会議室で話を聞きながら、瞬は違和感を覚える。

梨本が津田社長を殺そうとした理由は分かった。
だがその後は?
なぜ容疑者Bと名乗って次回の犯行予告文を残したのか。
そしてなぜ楓と大樹を誘拐したのか。
その目的は?

「大輔?どうかしたか」

考え込む瞬に須賀が声をかける。

「あの時対峙した梨本からは、本気で楓達を痛めつけようとする悪意は感じられなかった。どちらかと言うと余裕ぶって、どこか犯行を客観視して楽しんでいるような…。それにあのセリフ」
「あのセリフって?」
「…いや。ちょっと頭を冷やしてくる」

瞬はそう言い残し、一人で署を出ると車を走らせ始めた。

向かったのは、かつて釘沼ねじ工場があった場所。
今は更地になっており、不動産会社の看板が立っていた。

物思いにふけってしばらく立ち尽くしていると、隣の家からおばあさんが出てきた。

「あんた、釘沼さんの知り合いなのかい?」
「え?いえ、そういう訳では」
「そうか」

短くそう言って引き返そうとするおばあさんを、瞬が呼び止める。

「あの、釘沼さんのことをご存知なのですか?」
「もちろん。代々続いていた工場だったからね。先代の頃から知ってるよ」
「では、あの事件のことも?」

おばあさんは黙って頷く。
やがて更地を見ながらポツリポツリと話し出した。

「あんな酷い話があっていいのかい?ただ毎日を実直に懸命に生きていただけなのに。ささやかな家族の幸せが、一気に奪い去られたんだ」
「…その後、奥さんとお子さんがどうなったかご存じないですか?」
「静子さんは、ふさぎ込んでしまってね。実家のご両親が半ば強引に田舎に連れて帰ったんだよ。事件の噂がついて回るのを懸念して、旧姓に戻してね」
「お子さんも一緒に?」
「ああ。今頃は大きくなってるだろうね。あんたと同じくらいじゃないかね?利発そうないい子だったんだよ、勇作くんは」

え?!と瞬は思わず目を見張る。

「なんですって、ゆうさく?」
「ああ、そうだよ。静子さんの旧姓だから、北川 勇作くん」

ガツンと頭を殴られたような衝撃に、瞬は言葉もなく立ち尽くしていた。