その時
「おやおや、美しき親子愛ですね」
ふてぶてしい男の声が聞こえてきて、瞬は動きを止める。

そっと覗き見ると、映像に映っていた黒いマスクとマントの男が二人の前に歩み出た。

(こいつが二人を!)

瞬は鋭い目つきで犯人を睨みつけた。

「そろそろ警察にこちらの要求を伝えようと思いましてね。今度こそ怯えて震え上がる人質を演じてもらいましょうか」

そう言って縄を手にした犯人が二人に近づく。

「来ないで!この子に指一本でも触れたら許さないから」

沙奈が健悟を背中にかくまう。

「大人しくした方がいいと思いますよ?あなたの身体にアザが増えるだけですから」

右手を大きく上げた犯人を、沙奈が唇を噛みしめながら睨んだ時だった。

「動くな!」

銃を構えた瞬が犯人の背後に現れた。

「あなた!」
「パパ!」

犯人から目を逸らさずに瞬は二人に語りかける。

「遅くなって悪かった。二人とも、よく頑張ったな」

沙奈は目を潤ませながら健悟を胸に抱え込んだ。
瞬は二人に小さく微笑むと、犯人に有無を言わさぬ口調で告げる。

「両手を上げろ」

観念したように犯人がゆっくりと縄を落とし、両手を上げた。

「そのままこっちを向け」

言われた通り振り返った犯人に、瞬は目を凝らす。

「お前は一体誰だ?どうしてこんなことをした」
「ふっ、あんたはそれを知らない方がいいと思うぞ」
「なにっ?!どういう意味だ?」
「忠告してやってるんだよ。あんたがこれを知ったら」

犯人がそこまで言った時だった。

ドン!という強い衝撃を受けて瞬の身体は吹き飛ばされる。
壁に打ちつけられ、思わずうめきながら顔を上げた瞬は、目に飛び込んできた光景に身体中の血の気が引いた。