俳優陣に配られる台本は、その週に撮影するシーンまでしか配られていなかった。

つまり、事件の真相も、犯人が誰なのかも、一切知らされていない。

もしや、既にこの中に犯人は登場しているのか?と、皆は時折探り合っていた。

そんな中、最後の大詰めの前に1週間の撮影休憩を取る、と発表される。

「えー、みんな。しばらくはのびのびとプライベートを楽しんでくれ。あ!くれぐれも変身しないように。いきなり茶髪にしたり、食べすぎで腹がポッコリして画が繋がらなくなると困るからな」

監督の言葉に、あはは!と笑い声が上がる。

「よし、じゃあ一旦解散!来週、みんな元気に戻って来てくれ」
「はい!」

返事をした皆は、休みに何をして過ごそうかと楽しそうに話しながらスタジオをあとにする。

控え室に向かう瞬に続いて明日香もスタジオを出ようとした時、後ろから監督の声がした。

「おーい、瞬!明日香ちゃんも。ちょっといいか?」
「はい」

二人で立ち止まり、監督を振り返る。

「お疲れさん。二人ともこの後、もう仕事はないか?」
「はい、ありません」
「そうか。よかったらメシでも行かないか?うまい店があるんだよ」
「あ、はい。よろしければご一緒させてください」

そう言って、瞬は明日香の様子をうかがう。

「明日香も大丈夫?」
「はい、もちろん。ですが、私もご一緒してよろしいのでしょうか?お二人だけの方が…」

監督は、いや、と首を振る。

「明日香ちゃんと瞬の二人に話がしたいんだ。じゃあ、着替えたら出口で待っててくれ。俺もすぐに行くから」
「分かりました。よろしくお願いします」

二人は揃って頭を下げた。