映画は佳境に差し掛かる。

いきなり送りつけられた犯人からの映像。
なぜ妻と息子が誘拐されたのか、犯人の目的は何なのか。
愛する二人は今どこに?

情報分析班が手を尽くすが、場所や犯人の特定には至っていない。

瞬は焦りと悲しみと怒りに支配され、憔悴し切っていく。

「はい、チェックOK。本日の撮影は以上です!」
「お疲れ様でしたー!」

口々に、お疲れ様でしたと挨拶しながら、俳優陣が控え室へと戻っていく。

明日香も瞬の控え室に行き、片付けを始めた。

カーテンの中で着替える瞬を待ちながら靴の手入れしてをしていると、いつもより瞬の着替えが遅いことに気づく。

「瞬くん?大丈夫?」

カーテン越しに声をかけると、ようやく瞬がカーテンを開けた。

うつむいたまま、衣装を明日香に渡そうとした瞬の手から、ジャケットが床に滑り落ちる。

「あ、いいよ。そのままで」

拾おうとする瞬にそう言って、明日香がカーテンの中でしゃがんだ時だった。

ふいに背後から抱きしめられ、明日香は驚いて手を止める。

「…瞬くん?」
「ごめん。ちょっとだけこうさせて」

耳元で聞こえてきた瞬の声はかすれていた。

床に膝をつき、両腕でギュッと抱きしめてくる瞬の身体は、少し震えているようにも感じられる。

言葉に出来ない瞬の気持ちが痛いほど伝わってきて、明日香は思わず瞬の手を握った。

「ごめん、明日香。ごめん…」

何度もそう謝る瞬に、明日香は胸が張り裂けそうになる。

だが唇を噛み締めて涙を堪えると、やがてゆっくりと身体を離した瞬に正面から向き合って両手を握りしめた。

「瞬くん。『パワーが足りなくなったら、いつでもこっそり言いに来いよ?』なーんてね!」
「明日香…」

茶目っ気たっぷりに明るく笑う明日香に、瞬はふっと頬を緩める。

そしてまた愛おしそうに明日香を抱きしめた。

「ありがとう、明日香」
「…うん」

二人は時間も忘れて、いつまでも互いを抱きしめ合っていた。