トップアイドルの恋 Season2〜想いを遂げるその日まで〜【書籍化】

「私、まだまだ頑張りますよ。りなちゃん達や直哉くん達、みんながあんなに努力してるんですもの。負けてなんかいられません」

車を走らせながらきっぱり言い切る明日香に、紗季も陽子も頷く。

「そうね、弱音吐いてる場合じゃないわ」
「そうですよ。私達だってかろうじて30代!まだまだイケますよー!」
「かろうじて、ね。あはは」

苦笑いしてから、紗季はハンドルを握る明日香に声をかける。

「頼みの綱は明日香よ。本当にうちに来てくれて良かったわ」
「そんな。私こそ、紗季さんや陽子さんに感謝しています。芸能界のことなんてまるで知識がなかった私に、1から教えてくださって」

すると思い出したのか、陽子が笑いながら後部座席から身を乗り出してきた。

「ホントよねー。飛ぶ鳥を落とす勢いのサザンクロスを知らなかった女子高生なんて、明日香くらいよ」
「それを言われるとお恥ずかしい…」
「でもまあ、だからこそ明日香がうちで働いてくれることになったんだし。良かったんじゃない?知らなくて」
「そ、そうですね。もちろん今では、誰よりも大ファンのつもりですよ?」
「分かってるって!高校卒業後は服飾の専門学校でしっかり学びながらアルバイト続けてくれて、そのままうちに就職決めてくれたもんね。免許も取ってこうやって運転してくれるし、スタイリングやデザインのセンスもいいし。今や我が社の大事な戦力よ」
「お力になれていたらいいですけど」
「何言ってんの!明日香がいなけりゃ私達どうなっちゃうか。ねえ?紗季さん」

陽子に話を振られた紗季は、じっと押し黙ったまま何かを考えている。

「紗季さん?どうかしましたか?」
「あ、うん。あのね、実は明日香にそろそろコットンキャンディのチーフデザイナーになってもらおうかと思ってて」
「ええ?!」

驚きのあまり、明日香は思わずハンドルを切り損ないそうになった。

「さ、紗季さん?いきなり何を…。コットンのチーフは紗季さんしか無理ですって!」
「ううん、そんなことない。あの子達は明日香を誰よりも信頼してるわ。今までは明日香の年齢が若いこともあって、他のスタッフとの兼ね合いから私がチーフをやってたけど、もう充分明日香の実力も業界に知れ渡ってる。これからは明日香がチーフ、私がアシスタントになるわ」
「えっ、ちょっ、あの…」

運転しながら明日香は動揺を隠せない。

「そんな、私なんかまだまだ実力不足です。紗季さんや陽子さんには遠く及びません。ねえ?陽子さん」
「んー、いや。私も明日香はコットンのチーフになれる時期だと思う」
「ええ?陽子さんまで何を…」

真剣な表情のまま陽子は続ける。

「明日香、難しく考える必要ないわよ。今やってることをそのまま頑張っていけばいいの。ただ単に名刺の肩書が変わるだけ。それに紗季さんだって、急にいなくなる訳じゃない。これまで通り、そばで見守ってくれるわよ。ですよね?紗季さん」
「もちろん。いつだって相談に乗るし、これまで通り手伝うわ。だからそんなに身構えずに、ね?」

赤信号で車を止めると、明日香は少し考え込む。

「本当に私に出来るでしょうか?」
「当たり前でしょ?今だって充分出来てるんだから」
「それにこれからも、時間がある時にはサザンクロスの方にも来てくれて構わないわよ。コットンのチーフだからって、コットンしか関わっちゃいけない訳じゃないから」
「本当ですか?!」

陽子の言葉に明日香の顔がパッと明るくなる。

「あら、それが気がかりだったの?なーんだ。全く気にすることないから。コットンにもサザンにも、ステキな衣装を考えてね」
「はい!頑張ります!」

笑顔で頷く明日香に、紗季と陽子も優しく笑いかけた。