トップアイドルの恋 Season2〜想いを遂げるその日まで〜【書籍化】

「お疲れ様でした!」

その後の撮影は順調に進み、無事に予定していた全てのシーンを撮り終えた。

「お天気も良くてよかったわよね」
「ええ。思ったよりもぽかぽか暖かくて」
「私、身体中にカイロ貼って腹巻までしてきたけど、逆に暑くて困っちゃった」
「あはは!」

片づけをしながら、明日香はいつの間にかすっかり仲良くなったヘアメイクの明菜(あきな)と笑い合う。

「ね、明日の撮影って、夫婦二人のシーンよね?」
「うん。今日撮影した公園から帰って来た日の夜って設定の」
「監督が、『柏木さんのカッコよさで観ている女性のハートを鷲掴みにする』って意気込んでたシーンよね」
「あはは、そうだったわね」

衣装合わせの時の監督のセリフを思い出す。

(大人の色気ダダ漏れかあ。私、大丈夫かな?どうしよう、鼻血が出たら)

本気で心配していると、明菜が聞いてくる。

「監督が意気込んでるから、私もヘアメイク頑張らなくちゃって思ってるんだけどね。柏木さんって、勝負メイクとかあるの?」
「しょ、勝負メイク?」
「そう。ここぞって時はいつもこんなふうにしてるとか」
「うーん、そういうのはない気がするなあ。いつも、髪型やメイクはその時のヘアメイクさんにお任せって感じで。何か注文つけてるのも見たことないし」
「そうなんだ。じゃあ私って責任重大だな。どうしよう…」

そう言ってしばらく考え込んでから、顔を上げて明日香を見る。

「明日香ちゃんは?どういうのが柏木さんに似合うと思う?」
「ええー?!そんなの私に聞かれても」
「明日香ちゃんの率直なイメージでいいの。カッコイイ柏木さんって、どういう感じ?」

うーん、と明日香は宙に目をやる。

「歌って踊ってる時に、前髪がサラッと右から左に流れるところかな。ふっと横を向いた時とか少しうつむき加減の時に、自然にそうなるの。あと、サイドの髪のボリュームはあんまりない方がいいかも。前髪に動きがある分、サイドはわりといつもスッキリしてるイメージ」
「へえー、すっごく参考になる」
「そう?」
「うん。ちょっとメモ取らせて」

明菜は小さなノートを取り出すと、イラスト入りでサラサラと書き込みをする。

「明菜ちゃん、顔のイラスト上手だね。さすがはヘアメイクさん」
「そう?顔しか描けないけどね」
「そっか。私は逆に身体しか描けないの」
「そうだよね。なんかちょっと怖いイラストだよね、お互い」
「あはは!確かに。足したらちょうど良くなるけどね」

二人で笑い合っていると、陽子が声をかけに来た。

「明日香ー、片付け終わった?」
「はい、終わりました。今行きます!」

そう言って明菜を振り返る。

「じゃあ、またね、明菜ちゃん。お疲れ様でした」
「うん。また明日ね!」

明日香はにっこり笑って、初日の撮影現場をあとにした。