(はあ…)

明日香が立ち去ると、瞬は壁に寄りかかって大きく息を吐いた。

(びっくりした。まさか、話しかけてくるなんて)

口元に手をやって、気持ちを落ち着かせる。

レッスンの前に優斗と明日香の会話が聞こえてきて、心乱された。

もしや明日香は誰か好きな人が出来て、その話題で夕べコットンキャンディの3人と盛り上がったのでは?と。

その気持ちを打ち消してレッスンに集中したが、終了後に「瞬くん!」と声をかけられた時は空耳かと思った。

振り返るとそこには確かに明日香がいて、二人切りになるなんていつ以来だろうと考えた途端にドキドキした。

だが思いもよらない仕事の話を聞き、一気に冷静になる。

真剣な明日香の表情を見て、俺の意見なんか気にするなと思った。

明日香は間違いなくプロフェッショナルだ。
自分は口を出す資格などない。

その思いは明日香に伝わったらしい。
キリッと顔つきを変えた明日香を見て、必ずやってのけるだろうと頷いた。

だが明日香が踵を返し、レッスンルームに戻ったのを見届けると、一気に身体中の力が抜けた。

(なんだって?明日香が俺の映画のスタッフに?ヤバイ、嬉しすぎる)

藤堂監督に抜擢された初めての映画の主役。
プレッシャーがないと言ったら嘘になる。
なんとしても成功させなければ、と気負う一方で不安もあった。

(現場に明日香がいてくれるのか?映画の撮影中ずっと?)

身体中に力がみなぎってくる。

(よし、やるぞ!明日香の為にも、必ず成功させてみせる!)

なんて単純なんだろうと呆れながらも、込み上げてくる心強さに、瞬は不敵な笑みで拳を握りしめた。