「えっと、すぐにはお返事出来ないというか…。少し考えさせて頂けませんか?」
「いいけど。何か他に心配なことでもあるの?」
「それはもちろん。陽子さんはともかく、私には荷が重すぎますし」
「そんなことないわ。監督はサザンクロスの担当者って指名してこられたんだから。明日香の実力は充分だって判断されたんだと思うわよ?」
「ですが、私、コットンキャンディのチーフになったばかりですし」
「だからって少しコットンから離れるのを誰も責めたりしないわよ?数ヶ月間のことだし、スケジュールが空いてる日はコットンの現場にも入れるしね。それに明日香の不在中は、私が責任持ってチーフの代わりをするから」

紗季がそう言っても明日香は頷けない。
すると陽子がゆっくり口を開いた。

「明日香、率直に教えて。この仕事、やりたい?やりたくない?」
「やりたいです!」

パッと顔を上げて咄嗟に答えた後、明日香はまたうつむいた。

「じゃあ迷う必要ないんじゃない?」
「でも、本当にやってもいいのかどうか。私なんかが、瞬くんの大事な主演映画に水を差したりしたら…。それにせっかくコットンのチーフを任されたのに、早々に違う仕事をするなんて、りなちゃん達にも申し訳なくて」

ふうとため息をついて、紗季と陽子は顔を見合わせる。

「私達がいくら大丈夫って言っても、明日香が納得しなければ意味ないわね。あなたは中途半端な決意で仕事をするタイプじゃないもの。明日香、少し考えてみる?」

紗季に顔を覗き込まれて明日香はおずおずと視線を上げた。

「はい。少しだけお時間頂いてもよろしいでしょうか?すみません、わがままを言って」
「わがままなんかじゃないわ。ゆっくり考えてみて」

陽子も優しく明日香に語りかける。

「明日香、忘れないで。私も紗季さんも、明日香はオフィス クリスタルの自慢のデザイナーだと思ってる。どこに出しても恥ずかしくないわ。それに私達は明日香を信頼してるし、いつもあなたを応援してる。それはコットンキャンディやサザンクロスのみんなも同じだと思うわよ?」
「陽子さん…」

明日香の目に涙が浮かぶ。

「やだ!泣くことないでしょう?ちょっと、ほら!勘違いされちゃう」

そう言って陽子が慌てふためくと、離れたデスクで作業していた葵が驚いたように近寄ってきた。

「ど、どうしたの?明日香。陽子さんにいじめられたの?」
「ほらやっぱり…」

陽子はガックリと肩を落としてため息をつく。

「違います、違うんです!陽子さんはそんな人じゃありません。私の大好きな人なんです」

涙を拭いながら明日香が必死で訴えると、葵は、ええ?!と仰け反る。

「そういう関係だったの?知らなかった…」
「葵!違うったら!もう明日香、頼むから変なこと言わないで」

あはは!と紗季が笑い出し、つられて明日香も泣き笑いの表情になる。

「明日香、なんだかよく分からないけど、何かあったらいつでも相談してね?」
「はい!ありがとうございます、葵さん」

明日香が笑顔で礼を言うと、陽子も紗季もようやくホッと息をつく。

「明日香、私達にもよ。いつでも相談してらっしゃいね」
「そうよ。みんなあなたの味方なんだからね」
「はい、ありがとうございます。紗季さん、陽子さん」

頼もしい二人の言葉に、明日香は心からの笑顔で頷いた。