「お疲れ様です!」

やがてリハーサルを終えて控え室に戻ってきたサザンクロスの4人に、明日香はそれぞれの衣装を手渡していく。

「サンキュー!明日香ちゃん」

直哉達は笑顔で受け取り、カーテンで仕切られたスペースで着替えを始めた。

明日香は最後に瞬に衣装を手渡す。
いつものように小さく明日香に頷くと、瞬もカーテンの向こうに姿を消した。

ワイワイと賑やかに着替える4人が出てくるのを、明日香は靴を並べながら待つ。

(瞬くん、気づいてくれたかな?)

瞬に渡したジャケットの内ポケットには、瞬のお気に入りののど飴を密かに入れておいた。

リハーサルを見学した後、急いで下の階のコンビニエンスストアに行って買ってきたものだった。

「ジャジャーン!大変身ー!」

やがてカーテンを勢い良く開けて、直哉が両手を挙げながら得意気に登場する。

「どう?明日香ちゃん。今日も決まってる?」

すると充希が「バカ!直哉。俺達まだ着替えてるんだってば!」と言ってシャッとカーテンを閉めた。

「おお?お前ら明日香ちゃんの前では恥じらうんだな。陽子さんの前だと平気でパンツ一丁になるのに」

直哉が笑いながらカーテンの中に声をかけていると、後ろから「何ですって?」と怒りを含んだ声がした。

「な、直哉くん!ちょっと…」

慌てて明日香が声をかけるが、時すでに遅し。

「直哉ー?!私の前では平気でパンツ一丁って、どういう意味かしら?私には誰も恥じらわないって言いたいの?」
「ひいっ!陽子さん!まさか、そんなつもりは…」
「じゃあどういう意味よ?」
「えっと、それは。大人な陽子さんには、俺達も大人な一面をお見せしようかと…」
「パンツ一丁のどこが大人よ?!」
「ごめんなさーい」

こうなっては誰も陽子に敵わない。
直哉は逃げるように明日香の前に来ると、用意してあった靴を急いで履く。

そして靴べらを明日香に返すと、すたこらさっさと去って行った。

「まったくもう。いつまで経ってもお子ちゃまなんだから」

腰に手を当ててため息をつく陽子に苦笑いしながら、着替えを終えた他のメンバーも靴を履く。

最後に瞬が明日香に靴べらを返し、通り過ぎざま明日香の頭を右腕で抱え込んだ。

「のど飴サンキュ。さすが明日香」

耳元でささやかれる声にドキッとしていると、ふわりと良い香りを残して瞬も控え室を出て行った。