入り口に佇んでいた白いタキシード姿の男性が振り返り、明日香を見て微笑む。

「しゅ、瞬くん?!どうしたの?」
「ん?お姫様を迎えに来た」
「はあ?なにそれ。新しい役柄?」
「違うわ!」

そんな二人を、まあまあと皆がなだめる。

「ほら、二人とも並んで。ドアを開けるわよ」

明菜に言われて明日香が瞬の隣に並ぶと、明菜は沙奈と頷き合って扉を開いた。

「おめでとう!瞬、明日香ちゃん」
「おめでとう!明日香、瞬」

「…は?あの、どういうこと?」

サザンクロスのメンバー、富田や紗季や陽子や優子。

皆が二人を拍手で迎えた。

「え、あの、これは何?」
「ほら、行くぞ、明日香」

驚いて立ち尽くす明日香の右手を取り、瞬は自分の左肘に捕まらせた。

そしてゆっくりと歩き出す。

「おめでとう!明日香、瞬くん」

コットンキャンディの3人も加わって、皆は笑顔で二人を祝福する。

「あの、ありがとう。みんな」

明日香の顔にもだんだん笑顔がこぼれ始める。
と同時に、涙が溢れてきた。

「長かったわね。これからはちゃんと幸せになるのよ、明日香」
「紗季さん…」
「明日香、そのドレスよく似合ってる。紗季さんのデザインなのよ。ちなみに瞬の衣装は私のデザイン。世界に一つのオートクチュールよ」
「そうなんですか?ありがとうございます、陽子さん。紗季さんも」

いつの間にこんなステキな衣装を?と思っていると、カメラマンがすぐ近くに来て二人を撮影し始めた。

「おおー!お似合いだな、二人とも」
「藤堂監督!」

さすがにこれには驚いたとばかりに、瞬が目を丸くする。

「腕が鳴るなあ。いい絵が撮れそうだ。ほら、お二人さん。前に進んで」
「はあ…」

拍手の中、二人は祭壇の手前まで来ると、向きを変えて皆に向き直った。

より一層、拍手が大きくなる。

「瞬、明日香ちゃん。本当におめでとう!」

拍手が止み、まず直哉が口を開いた。

「ずっと前から二人が惹かれ合ってたのは、俺達みんな気づいてた。でもサザンクロスのことを思って、二人は恋人にはならなかった」
「そんな二人を見て、俺達も辛かったんだ。いつか、絶対に幸せになって欲しい。その為に、サザンクロスの人気を不動のものにしようとみんなで頑張ったんだ」

直哉に続く充希の言葉に、瞬は驚きを隠せない。

「でもやっとこの日が来たね!俺達も自分のことのように嬉しいよ。瞬、明日香ちゃん。本当におめでとう!幸せにならなきゃだめだよ」

最後に優斗がにっこり笑って締めた。

「ありがとう、みんな…」

瞬は言葉を詰まらせる。

「瞬、明日香ちゃん。おめでとう!そして、ありがとう。まだ若い二人が、仕事の事情で自分達の気持ちを抑え込んでいるのを見るのは、俺達大人も本当に辛かった」
「富田さん…」

「明日香、よく頑張ったわね。何度も聞こうとしたのよ。大丈夫?って。でもあなたはいつも凛とした強さを持っていた。瞬だけを見つめて、ただひたすら信じ抜いた。私は明日香を心から尊敬するわ」
「紗季さん、そんな…」

「私もよ、明日香。あなたは一度も辛い顔なんて見せずに、いつも明るく笑ってた。コットンキャンディにもサザンクロスにも、ファンの人達が喜んでくれるようなステキな衣装を考えるって、ひたむきに仕事に向き合っていた。そんなあなたの努力は必ず報われる。報われなきゃ私が許さない!って、神様にお願いしてたの。本当に良かったわね、明日香」
「陽子さん…」

明日香の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。