「な、奈央……。」
翌日の朝。数年ぶりに自分で起きた。
とりあえず謝ってからいつも通りにしようと思いながらも、気まずさを感じながら一階に降りた。だけど、タイミングがよく分からない上に、勇気がないもんだからずっと無言だった。
そんな俺に、姉さんが恐る恐るという感じで声をかけてきた。
「……なに?」
内心動揺しつつも、いつも通り、いつも通り……と自分に言い聞かせて返事をする。
多分……、おそらく普通に振る舞えているはずだ。
「えっと……。昨日は、ごめんなさい」
目が見開いていくのが自分で分かった。
「な、んで……。なんで、姉さんが謝るの?」
「だって、奈央を怒らせちゃったし…。」
———何故。 なぜ、姉さんが謝るのか。
俺が、おれが。
ただ、一方的に醜い感情を押しつけて。
怒鳴りつけて。
"とりあえず"謝って、いつも通りに。
……そんな、最低なことを思っていたというのに。
最愛の、姉さんを傷つけたのに。
なにより大切で。自分の命よりも大切な。
……なのに。なのにっ!!
何故。何故。なぜ、なぜ、…な、ぜ。
ッッ——!
「———ご、めんなさい。ごめんごめんごめん。ごめん、姉さんッ。お、れが……。俺が、悪かったよ……」
自分の中にある何かが、崩れた音がした。


