「————姉さん???」


それはポツンと、思わず口を出た言葉だった。呼びかけるつもりもなく、ただ目の前に姉さんがいるという条件反射だけで声になったのかもしれない。


あのときの俺は、見るに耐えなかったに違いない。呆然と、目も口もデカく空けていた気がする。……どうしよ、俺あのときからやらかしてるじゃん…。




「……な…な、奈央??」

大好きな姉さんがめちゃくちゃ動揺しながら返事をしてくれたときは、複雑だった。


姉さんと会えた嬉しさ、

姉さんが無事だったことへの安堵、

最愛の姉さんの隣に世間一般的にイケメンと呼ばれる見知らぬ男がいる苛立ち、

姉さんの動揺の理由を考えようとしたときのとてつもない不快感。



「姉さん、その男「たた、ただいま、奈央!!!」………。」

なぜ俺の質問を遮ったのか。

なにか疚しいことでもあるのか。

隣にいる男は彼氏なのか……??


今すぐに聞き出したいことがありすぎて、頭の中は混乱の渦だった。

それでも隣の男を衝動のまま殴らなかったのは、姉さんに嫌われたくない、姉さんの前で暴力は振るえないといった、俺に残っていた僅かな理性のお陰だろう。