仕事をそつなくこなし気付けば夕方の6時近く。

そろそろ行かねばと、司は腰を上げ机の上を片付ける。

表玄関に行けば、運転手の鈴木が待ち侘びたかのように司に駆け寄り、車の方にと2人足早に乗り込む。

「それで、どうだった?」
乗り込むなり、司は鈴木に問う。

「お兄様には直ぐに合う事が叶いました。
話しをさせてもらい、莉子様の安否と若の思いを伝えてあります。明日にでも会いたいとお返事を頂きました。」

「そうか、ありがとう。」
司はホッと息を吐く。

「妹様の方は…少し手がかかりそうですが、居場所と状況は把握出来ました。」

「どこにいる?」
話の先を急がせるように司が問う。

「花街の中でも老舗である藤屋です。
残念ながら…水揚げは半年ほど前にされたらしいのですが…。」

そこで司は頭を片手で抑え天を仰ぐ。
莉子になんと伝えれば…

「…という事はなかなか会えないと言う事か…。」
司は呟きため息を吐き、車窓に目を向ける。

真面目で仕事一筋の司だから今まで接待だとしても、そのような花街に行った事は無かったが、嫌でも噂は耳にする。

老舗ほど一見は断られるだろう。
しかも、今や売り出し中の女郎となれば、通ったとしてもなかなか会えないのだと聞く。

誰か…適当な知り合いがいないだろうか?
司は思いを巡らす。
日頃から遊び人と称される弟の顔が浮かぶが…
あいつを巻き込むのはいささか危険だと思い直す。

「誰か…花街に顔が効く、案内人が必要だ。」
司がそう言うと、

「1人だけ思い浮かぶ人物が…。」
と、鈴木が苦笑いしながら言う。

「誰だ?」

「立花専務です。無類の女好きですから、接待でも良く花街を使っています。」

苦手なタヌキ親父か…と司は頭を抑える。

しかし…他に適任がいなければ彼に頭を下げるしか無いか…。

「学様は…どうですか?」
鈴木が躊躇いながら言う。

「確かに遊び人ではあるが…花街でそこまで顔が効くなんて話になれば…長谷川家の看板に傷が付く。」
司がハァーとまた深いため息を吐く。

「聞くだけ…聞いてみるが…。」

立花専務に貸しを作るのも…弱みを握らせるのもいささか危険だ。
どうしたものかと頭を抱える。