冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う

(司side)

今朝の莉子は目が離せなくなるほど可愛かった。

俺がそんな事を思うようになるとは…そう自分自身で苦笑いしながら、小さくなって行く彼女の姿をミラー越しで見つめていると、

「可愛らしい方ですね。」
と、運転手の鈴木が目を細めて、ほくそ笑む。

鏡越しでずっと見ていた事がバレて気まずい…。

俺は一つ咳払いをして、平常心を取り戻す。

今朝方、稽古場置かれていた1通の手紙…。
いつ来たのか全く気付かなかった自分に腹が立った。

かつて見ず知らずの女子から手紙をもらった事は幾度かあったが、得体の知れない怖さを感じて、開く事無く鈴木の方で処理して貰った記憶がある。

しかし莉子からの手紙とならば、それとは別の感情が芽生え、まだ暗がりの行灯一つの稽古場であるにもかかわらず、慌て開いて中を見たいと気持ちが急く。

『拝啓、司様。』で始まる文章はまるで、ずっと読みたかった本を初めて手に取り開いて読む時のように、ドキドキと胸が高鳴りワクワクとした気持ちになった。

今朝、鍛錬を終え道場から引き上げる時、出入り口付近で1通の手紙を見つけた。

丁寧な綺麗な字で書かれたそれは、紛れもなく俺宛で、裏側を見れば莉子の名前が書かれていた。

思わず、その名を指でなぞり丁寧に封を開けた。

中には2通の手紙には、莉子が伝えたい想いが書かれてい

『司様へ

身も知らない私を引き取り、
婚約者へと導いて頂いた事、心から感謝しております。ありがとうございます。

東雲家から救い出して頂いた恩は一生忘れません。

しかしながら、司様の大切なお時間と、財を消耗させてしまう事に心苦しさを感じてしまいます。

その対価は、私がこれから一生懸命に尽くす事で、支払っていければと思っております。

ひとつだけお願いがございます。

出来れば、結納や結婚式は省いて欲しいと思います。
形ばかりの婚約者なのですから、これ以上ご迷惑をおかけしたくないのです。

どうか、よろしくお願い致します。

                敬具 』