冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う


「本当に…司様は…。」
側で見ていた千代さんが、ため息を吐きながら呟く。

「申し訳ないございません、莉子様。
司様はこういうところが不器用で…いつも言葉が足りないのです。
要するに莉子様に、いろいろ買い与えて喜んで欲しいだけなのですよ。」

千代さんがふふふっと笑う。

「…そうでしょうか…?でも…こんなに頂けません。」

「欲しい物をお好きなように、買ってしまえば良いのですよ。それに…ついでに家に引き篭りがちな麻里子様を、外に連れ出して欲しいのでしょう。」

確かに…傷が治ったら麻里子様と喫茶店に行く約束をしていた。

司様の不器用な優しさが見え隠れする。

「さあ、玄関に参りましょう。多分、待っておいでですから。」

千代さんに導かれて、急いで2人玄関へ行く。

そこには玄関框に腰掛けて、革靴を履いている司様と、見送りにと出て来た女中が数人いた。

千代さんから山折れ帽子をそっと渡されて、戸惑いながらも受け取り司様の横に行き正座する。

「司様…お帽子です。
あの…お金…大切に使わせて頂きます。ありがとうございます。」
と、帽子を渡しながら、周りの女中に聞こえないようこっそりと話す。

司様はこちらを見て、ホッとしたようにフッと笑って立ち上がり、

「行ってきます。」
と、憮然とした表情に戻り、鞄を持って玄関を出て行った。

そこで私はあっと、昨夜書いた手紙を渡し忘れていた事を思い出す。

慌てて下駄を履き、車に乗り込もうとする司様に駆け寄る。

「司様…あの…手紙を、兄妹と…東雲の叔父宛に書きました。」
袂に大切に入れておいた3通の手紙を取り出す。

「ああ、分かった。
直接俺が、本人達に手渡しするから安心してくれ。」
と、その3通の手紙を懐の内ポケットにしまう。

「莉子は字が上手いな。俺も代筆をお願いしたいくらいだ。」
そう言って、笑顔で車に乗り込んだ。

「よろしくお願いします。」
と、私は思いを込めて深く頭を下げる。

車のドアを閉める為に降りていた運転手の鈴木さんが、にこやかに笑いかけてくれる。

「莉子様、お話しは昨夜若から聞きました。
必ずご兄妹を探し出しますから、安心してお待ち下さい。」

「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
鈴木さんにも丁寧に頭を下げる。

「行ってらっしゃいませ。お気を付けて。」
車から離れて、千代さんの横に並び頭を下げて送り出す。

どうか亜子が早く見つかりますように…。
無力な私は手を合わせて祈る事しか出来ない…。