「カステラか。分かった、用意させよう。」
司様は私なんかの意見を直ぐ取り入れてくれた。
「あの…本当に大丈夫でしょうか?
東雲の叔父はとても気難しい人で……追い返されたり…してしまわないかと…心配なのですが…。」
しどろもどろになりながら、思いの丈を言葉に込める。
「ありがとう。俺を心配してくれてる事は手紙からも良く分かった。大丈夫だ。俺はそんなに弱くない。
追い返されたって、何度だって行ってやる。」
フッと笑う笑顔が眩しくて、その自信と揺るぎない思いが力強くて、先程からずっと目を合わせる事が出来ないままだった。
食事が終わり、司様の身支度の為に支度部屋へと足を運ぶ。
「莉子様、今日のお召し物は何にしましょうか?」
千代さんが楽しそうに聞いてくる。
司様ならなんだって、どんな色だってかっこよく着こなしてしまうだろう。
私は箪笥の中にある沢山のスーツの中から、目に止まったグレーの光沢のスーツにそっと触る。
これを今から彼が着るのかも、そう思うだけで私の心は人知れず高鳴る。
スーッと襖が開いて、身支度を整えた司様が入ってくる。
「これを、着ればいいのか?」
司様が私の側までやって来て、何食わぬ顔でグレーのスーツを手に取り箪笥から引っ張り出す。
司が着ていた着物を突然脱ぎ出すから、びっくりして恥ずかしくてサッと背中を向ける。
「あらあら、司様…うら若き乙女が居るんですから、少しは気にかけて下さいませ。」
千代さんが気付いてくれて、そう司様を咎める。
「すまない。…これから気を付ける。」
司様は顔色も変えずにそう答え、黙々とシャツに腕を通し着て行く。
脱いだ着流しは既に千代さんが畳んでいるし、私に出来る事は…ネクタイとハンカチと…ネクタイピンを選ぶ事ぐらい。
そう思って小物が入っている引き出しを開けて、色とりどりのネクタイの中から、紺と小豆色のネクタイを2本取り出して見る。
どっちが合うのか分からない…。
少し迷って無難な紺を持って司様に手渡すと、
「ネクタイは縛れるようになったか?」
と、聞いてくる。
「はい。…あの…ネクタイをお貸し頂きありがとうございました。」
いつ返せば良いか分からなくて、今朝からずっと持っていた、借りたネクタイを袂からそっと取り出す。
「じゃあ、練習の成果を見せもらおうか。これで、縛ってくれないか。」
司様は私が袂から出したネクタイを指名してくる。
「…はい。失礼します。」
司様は背が高いから、ネクタイの位置が丁度私の目線くらい。やり易さを感じながら緊張で震える手で、それでも丁寧に縛っていく。
一回で上手に出来てホッとする。
ギュッと首元まで締めて形を整える。
「出来ました。」
嬉しさとホッとしたのとで、緊張がほぐれ思わず司様を見上げれぱ、思っていたよりも至近距離で目が合い、戸惑ってサッと視線を逸らす。
「…ありがとう。後、時計と財布を取ってくれ。」
そう言われて、急いで小物が置いてある箱を持って、司様に見せると、腕時計を取って器用に腕にはめ、ハンカチをポケットにしまい、ネクタイピンを箱から出して留める。
最後に財布に手を伸ばし、お札を2、3枚取り出して私の前に差し出してくる。
「これで、足りないものを買い揃えてくれ。
着る物や日用品だったり…麻里子が行きたがっていた喫茶店に行っても良いし、好きに使って欲しい。」
司様の手元を恐る恐る見ると、
10円札が3枚も…
こんな大金…簡単には受け取れないと躊躇する。
「こんなに受け取れません。」
私は驚き、首を横に振って必死で拒む。
「俺の…婚約者として、恥ずかしくないよう身なりを整えろ。」
そう言って私の帯に強引にお札を差し込み、サッと部屋を出て行ってしまう。
司様は私なんかの意見を直ぐ取り入れてくれた。
「あの…本当に大丈夫でしょうか?
東雲の叔父はとても気難しい人で……追い返されたり…してしまわないかと…心配なのですが…。」
しどろもどろになりながら、思いの丈を言葉に込める。
「ありがとう。俺を心配してくれてる事は手紙からも良く分かった。大丈夫だ。俺はそんなに弱くない。
追い返されたって、何度だって行ってやる。」
フッと笑う笑顔が眩しくて、その自信と揺るぎない思いが力強くて、先程からずっと目を合わせる事が出来ないままだった。
食事が終わり、司様の身支度の為に支度部屋へと足を運ぶ。
「莉子様、今日のお召し物は何にしましょうか?」
千代さんが楽しそうに聞いてくる。
司様ならなんだって、どんな色だってかっこよく着こなしてしまうだろう。
私は箪笥の中にある沢山のスーツの中から、目に止まったグレーの光沢のスーツにそっと触る。
これを今から彼が着るのかも、そう思うだけで私の心は人知れず高鳴る。
スーッと襖が開いて、身支度を整えた司様が入ってくる。
「これを、着ればいいのか?」
司様が私の側までやって来て、何食わぬ顔でグレーのスーツを手に取り箪笥から引っ張り出す。
司が着ていた着物を突然脱ぎ出すから、びっくりして恥ずかしくてサッと背中を向ける。
「あらあら、司様…うら若き乙女が居るんですから、少しは気にかけて下さいませ。」
千代さんが気付いてくれて、そう司様を咎める。
「すまない。…これから気を付ける。」
司様は顔色も変えずにそう答え、黙々とシャツに腕を通し着て行く。
脱いだ着流しは既に千代さんが畳んでいるし、私に出来る事は…ネクタイとハンカチと…ネクタイピンを選ぶ事ぐらい。
そう思って小物が入っている引き出しを開けて、色とりどりのネクタイの中から、紺と小豆色のネクタイを2本取り出して見る。
どっちが合うのか分からない…。
少し迷って無難な紺を持って司様に手渡すと、
「ネクタイは縛れるようになったか?」
と、聞いてくる。
「はい。…あの…ネクタイをお貸し頂きありがとうございました。」
いつ返せば良いか分からなくて、今朝からずっと持っていた、借りたネクタイを袂からそっと取り出す。
「じゃあ、練習の成果を見せもらおうか。これで、縛ってくれないか。」
司様は私が袂から出したネクタイを指名してくる。
「…はい。失礼します。」
司様は背が高いから、ネクタイの位置が丁度私の目線くらい。やり易さを感じながら緊張で震える手で、それでも丁寧に縛っていく。
一回で上手に出来てホッとする。
ギュッと首元まで締めて形を整える。
「出来ました。」
嬉しさとホッとしたのとで、緊張がほぐれ思わず司様を見上げれぱ、思っていたよりも至近距離で目が合い、戸惑ってサッと視線を逸らす。
「…ありがとう。後、時計と財布を取ってくれ。」
そう言われて、急いで小物が置いてある箱を持って、司様に見せると、腕時計を取って器用に腕にはめ、ハンカチをポケットにしまい、ネクタイピンを箱から出して留める。
最後に財布に手を伸ばし、お札を2、3枚取り出して私の前に差し出してくる。
「これで、足りないものを買い揃えてくれ。
着る物や日用品だったり…麻里子が行きたがっていた喫茶店に行っても良いし、好きに使って欲しい。」
司様の手元を恐る恐る見ると、
10円札が3枚も…
こんな大金…簡単には受け取れないと躊躇する。
「こんなに受け取れません。」
私は驚き、首を横に振って必死で拒む。
「俺の…婚約者として、恥ずかしくないよう身なりを整えろ。」
そう言って私の帯に強引にお札を差し込み、サッと部屋を出て行ってしまう。



