(莉子side)

本当は仕事へ出かけるお見送りの際に、他の手紙と共に渡そうと思っていたのに…。

部屋に戻ってから少し冷静になった頭でそう思い、急に恥ずかしくなる。

どうしよう…今朝もきっと朝食を一緒にと言われるのだろうか?

羞恥心から合わせる顔が見当たらない。


しばらく1人悶々とした時間を過ごす。

そんな私の気持ちなんてお構いなしに、辺りは段々と明るくなっていく。
先程まで降っていた雨もどうやら上がったようだ。

何をする訳でもなく、ぼんやり窓から外を眺めていると、

トタトタ トタトタ
と廊下を歩く足音が聞こえてくる事に気付く。

足音が近づくたびにちょっとずつ莉子の心拍も急上昇してしまう。逃げたい衝動に駆られるけれど、行き場も無くその場に立ち尽くす。

その足音は莉子の居る部屋の前に止まり、耳を澄ましていると、
「おはようございます。莉子様、お目覚めですか?」
優しい千代さんの声が聞こえてきてホッとする。

「はい…おはようございます。」
小さく返事をして様子を伺う。

「司様が良かったご一緒朝食をとの事でした。」
ホッとしたのも束の間、またドキンッと心拍が急上昇する。

「ありがとうございます。…支度をして伺います。」
断る事なんて到底出来ない。

「では、お待ちしてますので。」
千代さんが気を利かせて去って行く足音がする。

支度なんてとっくに出来てるのに…気持ちの準備が出来ずに怖気付いてしまった。