冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う

悶々としながら、自分の部屋となってしまっている客間で時間を潰すしかない。

雨で濡れた髪はもう乾いたし、特に部屋に居てもやる事が無いから、ここに本でもあったら時間が潰せるのになと、なんとなく手持ち無沙汰を少し嘆く。

こんな事今まで無かった…。

東雲家にいる時は仕事が引っ切り無しにあり、息つく暇も無い程一日中動き回っていた。
時には夕飯を食べる時間さえも無くて、3食ちゃんと食べられる日なんて、月のうち数える程しかなかったぐらいだ。

与えられた部屋も3畳ほどの物置き小屋のような場所だった。お布団もぺたんこの使い古された煎餅布団で、冬は寒くてなかなか寝られないほどだった。

1日の最後は決まってお風呂洗いで、東雲家の人々が使う豪華な広い風呂釜を、1人で洗うのは結構な重労働だった。
そのお風呂を洗う前、少しのお湯で体を洗うのが日課だったけれど、冬は直ぐに冷めてしまい寒くて入れなかった。

それなのに、この家に来てからその生活が180度変わった。

暖かくて広い部屋にふかふかのお布団、3食昼寝付き、ついでにおやつも2回ある。

それに…働く事を禁じられて、今もこうして暇を持て余している。

こんな贅沢な生活もうとっくの昔に忘れてしまっていた。

障子を開けて降りしきる雨を窓から眺める。

そんな当たり前のことさえ、夢のようだとつい思ってしまうほどだ。