(莉子side)

ああ、そう言う事なのね。
私は今の言葉を聞いてやっとしっくり出来た。

司様が先程から、私にこれほどまでも結婚を推し進める事に違和感ばかりを感じていた。

私ばかりが守られ助けられるだけのこの結婚話しに、司様の得は何1つも無かったから。

そればかりか厄介者の私なんかを貰えば、憎き敵の東雲家を親戚にしなければならないし、その上元令嬢と言うどっちつかずの身分も迷惑の何者でも無いだろう。
それに…傷だらけで痩せっぽちの私なんて…
…申し訳ないくらい利点が見つからない。

だから、やっとしっくり出来た。

彼はただ罪滅ぼしがしたいのだ。
私を紀香様と間違えて手を上げてしまった事に、それほどまで自責の念に堪えかねているのだ…。

もし、私が結婚に従えば…その心を救ってあげる事が出来るだろうか…。

少し考えた挙句思い切って返事をする。

「あの…私には何もありません。
そればかりか厄介事だけが着いてきて
…貴方にご迷惑ばかりをかけてしまう事になると思います。

それでも…もし…結婚する事で少しでも貴方のお気持ちが晴れるのならば…。
私は一生を掛けて、麻里子様の怪我の償いをさせて頂きたいと思います。」

これは私の決心だった。そして頭を深く下げる。

「別に…麻里子の怪我の償いをさせたいと思って、言っている訳では無いのだが…」

と、司様は腑に落ちない顔をして呟く。

私としては、今何よりも先に司様にして欲しい事があった。
雨で濡れて冷えてしまった身体を出来るだけ早く温めてもらう事。

これ以上このままでいては、風邪を引いてしまうのではないかと心配で仕方が無い。

私なんかの事なんてどうだっていいのだ。
もうとっくに諦めた人生なのだから…。

そんな事よりも今、未来あるこの人をどうにかして、早くお風呂に入って貰わなければいけない。

使命のようにそう思い、あらかじめ選んでおいた着流しと、お風呂に必要な物を一式かき集め、もう話しは終わったと追い立てるように襖を開ける。

「お風呂へどうぞ。」

それでも当の本人は納得がいかないような、浮かない顔をしてなかなか立ち上がってくれないから、

「お風呂に入って頂けるのでしたら、先程のお話し前向きに考えさせて頂きます。」
と、そう伝えた。

「…分かった。」

と、怪訝な顔で重い腰をあげやっと歩き出してくれた。
私は心底ホッとして涙の跡を拭い、彼の後を着替えを持っていそいそと着いて行く。

「…本当に分かっておられるのか?
先程の話し、俺の風呂なんかよりもよっぽど大事な話しだった筈だが…。」

司様はそれでも腑に落ちないようで、廊下を歩きながらも振り返って聞いてくる。

「分かっております。ちゃんと考えさせて頂きます。それでも今大切なのは、貴方が風邪をひかないように身体を温める事なのです。」

私はそう言って唇を引き結ぶ。

何よりも誰よりも大事なのは貴方の身体です。と私は心の中で思う。