お姉様はなぜあの人と結婚したんだろう?
もしも、私を花街から出すために犠牲になったのだとしたら、申し訳ないとずっと思っていた。

だけど、買い物中に気が付いた。
どうやら姉はあの人に恋をしてしまったんだと言う事に…。

昔から姉は穏やかで可愛らしく、一輪の花のように凜とした姿で、穢れを知らないその澄んだ心で真っ直ぐに物事を見ているような、誰からも愛される存在だった。

そんなお姉様が大好きで誇らしく、私の自慢だったから、今でも花街に売られたのが私で良かったと思っている。

だけど…東雲家に養子として入ったにも関わらず、下働きのような仕事をさせられていたらしい。お辛い思いをして来ただろうに…。

でも今では笑顔を取り戻し、少し寂しげな雰囲気を残すのみだ。

夕飯時、料理は出来ないけれど何か手伝いたいと思い台所へと足を運ぶ。

そこにはお姉様と長谷川司が居た。

なぜ、彼が台所なんかに?

ドアの隙間から中をこっそり覗く。
どうやら彼が魚を捌いているようだが、姉は背中合わせで彼の後ろに立っている。

彼のワイシャツの袖元を気にして、お姉様がたくし上げたりと甲斐甲斐しく世話を焼いている。

捌きが終わったようでお姉様が料理を作り始める。
隙のない動きは、この6年で家事を教え込まれただろう事を伺い見る。

長谷川司は台所から出て行くそぶりも見せず、片隅に置いてある椅子に座り腕を組み、ただお姉様の姿を見つめている。

たまにひとこと二言言葉を交わし、味見をしたり高い場所から皿を出しだりと、意外と細かな事でも嫌な顔一つしないで手伝っている。

そこには2人だけの穏やかな時間が流れていた。

彼は本当にどういうつもりでお姉様と結婚したのだろう…。

目的は何?彼にとってこの結婚に利となる事は何?
ますます分からなくなる。

私は台所に入るタイミングを逃し、かといって今更部屋に戻る事も出来ず、ドアの前に立ち尽くしたまましばらく2人の様子を観察していた。