冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う

「司は今日はやけに早いな。いつもならこの時間はまだ働いているだろうに、どうした？」
さすが大企業の社長だ。隅々にまで目を光らせている様で頭が上がらない。

「実は、父上にご報告が。
麻里子に怪我をさせた犯人が法的に何も罪を被らず、今ものうのうと普通に生活をしています。
その事に自分は許せないでいました。
本人に罪を償い心からの謝罪を望んだのですが、本人では無い身代わりが…。

それに気付かず、私は彼女に手を挙げてしまいました。彼女は脳震盪を起こした様で、今客間に寝かしています。
怪我を負わせたのは自分の責任です。彼女の怪我が治るまで自分が責任を取りたいと思います。」

父は一息ついてから、

「司は普段冷静だが、身内の事となると昔から熱い男だった事を忘れていたな。

向こうは貴族様だ、それに比べてうちは事業に成功してここまでになったが商人の出だ。
未だこの国の身分制度は根強く残っている。

悔しいが、まだまだ我々の力が及ばない。事件がもみ消されても争う事が出来ないのが現実なんだ。
その事を肝に銘じて、揚げ足を取られない様にしなければならない。」

父は俺の悔しい気持ちは痛いほど分かってくれている。だからといってどうしようも無い世の中だと言う事も…。

「はい。ご迷惑をおかけし申し訳ありません。」
俺は素直に謝り、静かに夕食が始まる。

皆それぞれに思うところがあるらしく、その後は誰1人として口を開く事なく食事は終わった。

「母様まだ体調が戻らないようだ。
麻里子、また母様のところで一緒に寝てやってもらえるか？」
食事後、父は妹に声をかけ居間の方へと消えていった。

俺は学と2、3会話を交わし、急いぎ彼女の眠る客間に戻る。