冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う

「お兄様。先程の方は目覚められましたか?」
食堂に着くなり妹の麻里子が心配そうな顔で、ひそひそと聞いてくる。

「いや…まだだ。何かあったら直ぐ報告をするように言ってある。」

長谷川家は古き良き日本家屋であるが、貿易商を営んでいる手前、近代的な要素も取り入れ畳の部屋に洋式のテーブルや椅子を並べている。

新家屋の洋館も現在建築中で、完成し次第両親と妹と弟達はそちらに移る予定だ。

司には、妹の麻里子他に今年22歳になる弟の学がいる。学は今年大学四年生だ。

「何かあったの?帰って来たら女中が慌ただしくしていたけど。」
学が何か勘付いているようだから、父だって同じだろう。

「父上が来たら全て話す。」
俺はそう伝え、2人は席に着く。

「お帰りなさいませ、お父様。」
父は部屋着の着物に着替え食堂に入って来た。

「ただいま、麻里子。今日は足の具合はどうだ?」

「天気のせいか今日はシクシク痛むの。だけど、学校にはちゃんと行って来たわ。」

「そうか…。痛くても動かさないと筋肉が固まってしまうから、訓練だと思って頑張るんだぞ。」

「はい、お父様。」
麻里子と父はいつも通りの会話を交わす。

「学は、大学の方はどうだ?ちゃんと今年で卒業出来るんだろうな。」

「大丈夫です。単位も問題無く取ってますし、試験も滞りなく合格してます。」

「そうか…お前は司と違ってサボり癖があるから心配だ。」

学は調子の良い事を言ってその場を和ませる天才だ。
頭の硬い俺と違って、上手く世の中を渡っていけるだろ。