「今日は何処に行くの?」
街並みが高い建物に変わり車の数も増えてくる。

「百貨店が良いかと思って、最新の洋服が一気に見れるだろ。横浜は坂が多いし洋服の方が着物よりも動きやすい。着物は越してから買った方が荷物が少なくて楽だろ。」

莉子の方を伺い見ながら司が言う。

横浜への赴任も段々と近付きその準備の為、今日は買い物へ行こうと誘われる。

「えっと…私は、洋服はあまり着た事が無くて…最近の流行りも分からないですし…。」
莉子が戸惑いながらそう話すと、

「大丈夫、莉子さん。私が選んであげるから、百貨店久しぶりだから楽しみ。」
と、麻里子は隣で嬉しそうだ。

「この前、雑誌で見たんだけど細いベルトのワンピースが流行ってるみたいだよ。莉子さん細いしきっと似合うと思う。」
麻里子は目を輝かせて莉子を見てくる。

…もうきっと断れないと莉子は断る事を諦め、流れに乗るしかないと悟った。


この6年の間に街は西洋化の一途を辿り、高いビルや路面電車など見違えるほどの変わりようだった。
だから、莉子は百貨店には一度も来た事が無かった。

うわー高い…。

莉子は入口で五階建ての建物を見上げて立ち止まる。

「百貨店は始めてか?」
振り向くと司が優しく笑うから、それだけでドキドキしてしまって目が泳ぐ。

「はい…噂では聞いていましたが…来たのは始めてです…。」

圧倒される高さと、押し寄せてくる人波に気後れしてしまう。慌てて麻里子が流されないように、莉子は腕を差し出し捕まってもらう。

「莉子さん、ありがとう。階段だけは大変だけど、前より結構動くようになって来たのよ。」

莉子に寄り添い階段を登りながら麻里子が言う。

「良かったです…。でも、危ないので今日は掴まっていてください。」

「お前は目を離すと直ぐ居なくなって、迷子になりやすいから気を付けろよ。」
2人の事を後ろから守りながら、司もゆっくりと階段を上る。

「呉服屋や小物屋は何階だ?」

入って直ぐの階には、ガラスケースに並べられた、装飾品やバックなど沢山の物が陳列されていて、品物の多さに莉子は面くらい、先程からキョロキョロと辺りを見渡すばかり。