冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う

「いや、麻里子のせいでは無い。この事は俺が勝手に考え、秘密裏にやった事だ。
罪に問われるのであれば俺だけで充分だ。」

男は静かにそう言ってその場を動く事なく、意識の無い名も知らない女を見つめ続ける。

しばらくそうしていたが、

「鈴木、彼女の事を調べてくれ。」
側に静かに寄り添い、事の成り行きを見守っていた運転手の男に声をかける。

「はい…かしこまりました。
しかし、この方は確かに東雲家の馬車から降り立ち、自分の足で私の所まで歩いて来たのでございます。東雲の者である事は間違えないと思われます。」

「…そうか。東雲家の女中の1人かもしれない。身元を調べて欲しい。」

「かしこまりました。
若様、貴方に罪はありません。
自分の身代わりを送り込んで来たのはあくまで、東雲家でございます。罪があるなら向こうです。貴方では決してございません。」

鈴木と言う男は祖父の代から長谷川家に支える運転手だ。小さい頃から男を支え、育てたと言っても過言では無い。

頭を下げて部屋を出て行く鈴木は、男の心情を心配しフーとため息を一つ吐く。

その男の名は、長谷川　司（はせがわ　つかさ）26歳。

有名大学を首席で卒業後、親が経営する貿易会社に務めている。3年間海外営業部長を選任され、日々忙しく世界中を飛び回っていた。　　　
そして最近、専務を任され帰国して来たばかりだった。

文武両道を自で行く男。
醸し出す雰囲気も合間って、長身で見目も良く、すれ違う誰もが彼に目を奪われる程の美男子だ。

ただ、一つ彼の欠点を挙げるならば、愛想が無くあまり笑う事も無い為、一見、人間味の無い冷たい人だと思われがちだ。

しかし深く関わって来た人々からしたら、実は優しく懐深い人間だったりするのだ。

そして10歳離れた妹をとても可愛がっていた。

その事もあり、妹を怪我させた張本人である東雲紀香をどうしても許せなかったのだ。