かすかな期待が生まれてしまうのは、私の手首が彼に握られているから。

 そのせいで無意味な欲望が、あふれだして止められない。


 このままずっと……

 死ぬまでずっと……

 私だけを捕らえ続けてくれればいいのに……


 なんて。




 戒璃くんに聞きたいことがあって、少しだけ緩めた口もと。

 でもすぐに上下の唇を押し当てたのは、疑問符をこぼすのが怖くなったから。


 『私のこと、覚えてる?』


 そんなこと聞かなくても、答えはわかっている。

 私のことなんて、綺麗さっぱり忘れているに決まっている。

 

 だって戒璃くんは、日本で知らない人がいないほどの大スターで。

 大人気バンド【89盗(はくとう)】のギターボーカル。