「ああ、そう。つまりただの臆病者ってことか。それなら言い訳なんかしないで、この学校の連中と同じように大人しく操られてればいいだろ」


やはり、八神君から慰められるとは思っていなかったけど、想像以上に厳しい上に、痛い所を思いっきり付いてきて、怒りが一気に込み上がってくる。


「そんなこと分かってます!変なこと言ってすみませんでしたっ!」


なので、これ以上愚痴を溢すと自分の心が更に傷みそうで。


私は強制的に話を終了させると、やけになりながらその場を離れようと一歩足を踏み出す。


すると、不意に手首を掴まれ、何事かと振り向いた矢先。


すぐ目の前には八神君の綺麗な顔が視界いっぱいに広がり、思わず体が強張ってしまう。


「……あの、まだ何か?」


これまでの経験上、彼に接近されると反射的に身構えてしまう為、私はどぎまぎしながら尋ねてみると、何やら不敵な笑みを浮かべ、私の目をじっと捉えてくる八神君。


「そんなに変わりたいなら、一つだけ方法を教えてやるよ」



それから、急に話が変わり、私はきょとんとした目で彼を見返すと、突然八神君は顔を耳元まで近付けてきた。


「とことん俺に堕ちればいい。そうすれば、何もかもどうでも良くなる」


そして、またもや人を惑わすような。

色味を帯びた低い声で囁かれてしまい、急激に体が熱くなるのを感じながら、勢い良く後ずさる。


「だから、私はあなたの玩具じゃありません!何度も言うけど、本気じゃないならこれ以上からかうのは止めて!」

ここは流されてはいけないと。


揺れ動く自分の心を戒めながら強く非難すると、八神君は表情を崩すことなくあっさり私の手首を離した。


「いや、割と本気だけど。前にも言っただろ?あんたのその糸滅茶苦茶にしてみたいって。だから覚悟しろよ」


それから、あの資料室の時と同じ。


純粋無垢な笑顔とは裏腹に、えげつない台詞をさらりと言い残してから、八神君は私の返答を待たずして、足早にこの場を去って行ってしまった。