「……な、渚ちゃんって、足……早いんですね」


走り続けてかれこれ数分が経過。


ここまで全速力で走ったのは中学生以来かもしれない。


運動はあまり得意な方ではないので、速度も持久力も圧倒的に渚ちゃんに劣る私は、何とか彼女に追いついたけど、息が上がり少しでも気を緩めると倒れそうになる。


とりあえず、呼吸を整える為に私は何度か深呼吸をしてから、一向に背を向けたまま立ち尽くす渚ちゃんの元へと静かに歩み寄った。


「見苦しい所を見せてしまって申し訳ございません。……驚きましたよね?」


兎に角ここは先ず謝らなければと。


彼とのキスを見られた以上、下手な言い訳をするつもりはなくて、私は否定することなく真っ先に頭を深々と下げた。


しかし、渚ちゃんはこちらを振り返ることなく口を閉ざしたままで、私は小さく肩を落とす。



やっぱり失望させてしまった。


当然といえば当然だろう。


心から慕っていた人の裏切り行為を目撃してしまったショックは、私も痛い程よく分かるから。


だから、彼女を傷つけてしまった罪悪感が止めどなく押し寄せてきて、例え渚ちゃんが私を拒絶しても謝罪だけはしたくて。
何をすれば償いとなるのか必死に思考を巡らしてみる。


「こんな淫らな私なんて見たくなかったですよね。なので、気が済むまで罵って頂いて構いません。私自身もそう思っています。もう顔も見たくないのであれば、副会長の座を降りることも覚悟していますので……」


なので、思いつく限りのことを並べて彼女の返答を待っていると、暫くして、ようやくこちらの方を振り向いてくれた渚ちゃんは今にも泣きそうで。

その表情に胸が苦しくなり、私まで涙腺が緩み出してくる。



「……確かに、かなり驚きましたし、ショックではあります」


それから、ぽつりぽつりと胸の内を明かす彼女の言葉一つ一つをしっかりと受け止めながら、私は小さく拳を握り締めた。


「でも、違うんです。私は倉科副会長を軽蔑するとか、そんなことは断じて考えていません!」


すると、今度は覚悟していた言葉とは違う内容が返ってきて、面を食らった私は一瞬呆気に取られてしまう。


「……え?あ、あの渚ちゃん遠慮はしないで下さい。私は渚ちゃんの正直な気持ちが聞きたくて……」


「遠慮なんかしていません!そもそも、倉科副会長は真面目過ぎるんです!というか、自分を縛り過ぎです!」


ひとまず、ここは変にフォローされるよりは、ありのままの気持ちをぶつけて欲しくて懇願したところ、何故か意図しないところで怒られてしまい、またもや言葉を失ってしまう。


「生徒の模範となるように日々努力しているのはよく分かります。あと、九条会長の婚約者として常に自分を戒めているのも痛い程伝わってきます。それこそ、自分を犠牲にして全身全霊で会長に全てを捧げているくらいに。一体私を何だと思ってるんですか?私がどれだけ副会長のことを見ているとお思いで?」


そして、更に捲し立てるようにこれまでの自分を見事言い当てられてしまい、もはやぐうの音も出ない。