こうして渚ちゃんとの約束を取り付けて、私は上機嫌に教室へと向かう道中。
亜陽君が居る教室の脇を通り過ぎようとした途端、視界の端である人物を捉え、思わず足を止める。
「……白浜さん?」
見ると、席に座りながら楽しそうにお喋りをしている彼女と亜陽君の姿。
まさか、白浜さんが亜陽君と同じクラスだったとは。
しかも、隣同士の席だなんて余計に部が悪い。
けど、亜陽君は彼女をただの練習台としか思っていないのはよく分かったから、心配する必要は何もないのだろうけど……。
そうは言っても過去に何度か体を重ねていた相手。
理解はしていても胸の奥が締め付けられるような息苦しさが襲ってきて、つい胸元に手を当ててしまう。
それに、いくら亜陽君に気持ちがないとしても、白浜さんは一体彼のことをどう思っているのか。
校門前で会った時も、私を挑発する素振りを見せてきたから、おそらく満更ではないと思う。
だとしたら、またあの手この手を使って彼と交わろうと企ているのか。
でも、亜陽君は私を傷付けないとはっきり宣言してくれたし、恋人として彼の言葉は信じたい。
けど、心に残った傷はそう簡単に消えることはなく、あの時の不安と悲しさと絶望感が再び垣間見えてきて、これ以上思い出したくない私は逃げるようにその場を離れる。
本当に、全てはあそこで狂い始めてしまった。
あの時、図書室で勉強しようと思わなければ。
不純異性交遊を止めようと思わなければ。
逃げ場所を公園にしなければ。
八神君を手当しようと思わなければ。
後悔しても仕方がないと割り切っていたけど、改めて振り返ると沢山のターニングポイントがあったのに、全てそれをすり抜けてしまった自分をつくづく呪いたくなる。
兎にも角にも、何を言っても今は軌道修正していくしかないと。
もう一度自分に強くそう言い聞かすと、未だ取り巻く邪念を無理矢理振り払い、私は頭を切り替えてから足早に教室へと戻っていった。