麗しの狂者たち【改稿版】



鏡でって……どういうこと?

私は暫く呆然と入口を眺めていると、廊下から生徒達の話し声が聞こえてきて、ふと我に返った。

こんな乱れた姿を誰かに見られるわけにもいかないので、私は慌てて外されたボタンを閉めると、制服を正して足早にその場を離れる。

それから、亜陽君が言うように、トイレに入って誰も居ないことを確認すると、ボタンを外して彼にキスされた場所を鏡の前に映した途端、絶句した。

そこには、白い肌に刻まれた鬱血したような赤黒い跡。

しかも、くっきりと上唇の形が分かる程に色濃く残るその印は、まるで亜陽君の所有物であることを示しているかのよう。

そう思った瞬間、鎮静していた体の熱が再び上昇してきて、私は恥ずかしさのあまり咄嗟にそれを自分の手で隠した。


これが所謂キスマークというもの。

それは大人になれば何れは分かるのだろうと思っていたけど、まさか今ここで実物を目の当たりにしてしまうなんて。

しかも、亜陽君はこれから毎日ここに付けると宣言していった。

つまり、私は明日もあんな過激なことをされるというわけで……。


そこまで想像すると、頭の中がパンクしそうになるので、私は邪念を振り払い、急いでボタンを閉める。

兎にも角にも、亜陽君には昨日の八神君とのキスに勘付かれてしまった。

それについて深くは追及されなかったけど、その代わり、亜陽君の様子が少し変わり始めているような気がする。


これまで私に嫉妬心を見せることなんて、一度もなかったのに。

クラスの男の子と仲良くしている時も、誰かに告白された時も、亜陽君は何も言わず黙って私を見守っていた。


そんな彼が、あそこまで感情を剥き出しにするとは。

亜陽君を初めて拒んでから、次々と明らみなっていく彼の裏側に、若干頭の中が混乱し始める。

けど、体に刻み込まれた亜陽君の所有物である印に心は舞い上がっていて、気付けば昨日の悲しい記憶は何処かに追いやられていた。