麗しの狂者たち【改稿版】



ここは一先ず起きて謝った方がいいかもしれない。

そう心が揺らぎ始め、目を開くか開かないか迷っているところ、急に亜陽君の指がするりと滑り私の唇に触れ、思わず小さく肩が反応してしまった。


「美月が俺から逃げるなんて、絶対に不可能だから」


今度はどんな甘いことを言われるのか、期待に胸を膨らましていた最中。

何やら急に声色が変わり、これまでに聞いたことがない程の低くて冷めた声に、一瞬背筋がぞくりと震える。


……亜陽君?


彼の豹変ぶりに驚き目を見開くと、亜陽君は既に私に背を向けて、そのまま保健室から出て行ってしまった。

私は出入り口の方に首だけ向けた状態のまま、暫く呆然とする。


あれは一体何だったのだろう。
幼い頃から亜陽君の側にいたけど、あんな喋り方は初めてかもしれない。

いつも私に語りかける時はとても優しくて穏やかなのに、さっきのはまるで……。


その時、朝のHRが始まる予鈴が鳴り響き、私は慌てて時計に目を向ける。

気付けば、そろそろ行かないと本当に遅刻してしまいそうな時刻を示していて、私はベッドから降りると急いで保健室を後にした。