こうして月日が流れ、厳しい寒さが通り過ぎようとする頃。


これまで朝は凍てつく空気に体の芯まで冷え切っていたけど、気付けば吐く息は段々と色味が薄くなり、殺風景だった学校の植木はポツリポツリと色付き始める。


入院していたせいもあるけど、早いことに季節はもう卒業シーズンを迎え、三年生がいない校舎は少しだけ閑散としていた。



「倉科副会長ー!テーブルのセッティングこんな感じでいいですかー?」


すると、暫しの間感傷に浸っていると、遠くの方で渚ちゃんの声が聞こえ、そこで私はふと我に返る。


それから、小走りで彼女の元に行くと、真っ先に目についたのは円卓に飾られた赤い薔薇と白い鈴蘭。


シンプルだけど、純白のテーブルクロスにとても映えて見え、それだけで華やかさが一気に増していた。


「うん、大丈夫。装飾のお花も完璧。流石、河原木工房さんのデザインはいつ見ても洗練されてて素敵ね」


河原木君の実家は花屋であり、私も花嫁修行として華道を嗜んでいた時、よくここのデザインを参考にした事がある。


だから、この社交パーティーの場でも是非活用したくて、河原木君には無理を言ってお願いしてみたら、快く引き受けてくれて、この会場内に飾られている花を全て手掛けてくれた。



「……倉科副会長のためならお安いご用です」


すると、普段滅多に見ることない河原木君の甘い姿に、不覚にも心を鷲掴みにされてしまう。


「ちょっと、私の前で副会長に何アピールしてんの!?ツンデレ技は卑怯よっ!」


そのやり取りを隣で眺めていた渚ちゃんは、すかさず私達の間に割って入り、河原木君に思いっきり牙を向けてきた。


「だから、お前はいつも猪突猛進過ぎるんだよ。駆け引きってものをよく考えろ」


ここは彼女として嫉妬しているのかと思いきや。


どうやら彼ではなく私の争奪戦を繰り広げていたらしく、歪み合う二人の間に立たされ、何だかとても複雑な心境に陥ってくる。


「あ、美月いた。ごめん、ちょっとこっち来てくれる?」


そんな中、今度は司会台の前で立っている亜陽君に手招きをされ、私は仲睦まじく(?)口論している二人を置いて、彼の元へと向かった。


「来賓者の挨拶が終わって、歓談が始まった時の音楽を流すタイミングなんだけど……」




いよいよ本日開催される社交パーティーの最終チェックを行う亜陽君。


このイベントの責任者として、私以上にやるべき仕事が沢山あったにも関わらず、それをものともせずに淡々とこなし、今日という日を無事迎えることが出来た。


社交パーティーの開催なんて生徒会史上最大のプロジェクトなのに、これまで特に大きな問題もなくここまで来れたのは、亜陽君のお陰と言っても過言ではないかもしれない。


やはり彼はどこまでも優秀な人材で、素敵な人なんだと。

暫く横顔を眺めていると、不意にこちらに目を向けてきた亜陽君と視線がかち合った。



「どうしたの?俺に見惚れてた?」


すると、完全に心を見透かされてしまった状況に、私は恥ずかしさのあまり否定することも忘れて、つい視線を足下に落としてしまう。


「ご、ごめんね。やっぱり亜陽君ってすごいなって感心してて……」


確かに彼の言う通り、見惚れてしまったことは否めない。


例え恋人関係は解消されたとしても、私にとって憧れの人であることには変わりないので、こうして油断するとふと昔の自分が顔を出してくる。


「本当に可愛いなあ。良いんだよ、そんな遠慮しなくて。美月がいいなら俺はいつでも構わないから」


「えっと……ちょっと何言ってるかよく分からないです」


しかし、彼の裏側を知ってしまったが故に、隙あらばこうして私欲剥き出しの甘い誘惑を仕掛けられてしまい、それを交わすにはもうとぼけるしかない。