それから、彼の唇が離れたタイミングで、ふと脳裏に浮かんだ両親の顔。


「そういえば、お父さんが私達の交際を認めてくれるって。事故に逢った時も来夏君のことも褒めてたよ」


ここは早く彼にも伝えようと。

再びキスされる直前で私はそれを遮り、当時のことを振り返る。


「あと、来夏君のお陰で大事なことに気付かされたとも言ってたよ。それで改めてお礼を言いたいから、今度家に来て欲しいって」


そして、これは後に母親から聞いた話で。


宣言通り父親なりに彼を理解しようとしている姿勢が嬉しくて、自然と頬が緩みだす。



「それはつまり、筋を通せと言うことか」


そんな私とは裏腹に、真顔で返してきた来夏君の一言で表情が固まる。


「え?そういうこと?」


母親の話振りだと、まるで友人を家に招くような軽い感じの雰囲気だったので、そこまで深くは考えなかった。


けど、言われてみれば、亜陽君との婚約を断ち切ってまで来夏君を選んだのだから、当然と言えば当然の話なのかもしれない。


「それじゃあ、俺も身の振り方考えないとな。これからはもっと真面目になるよ」


すると、来夏君の口からそんな言葉が出るとは思いもよらず。 


一瞬冗談かと思ったけど、至って真剣な表情を見る限りだと、どうやらそうではなさそうだった。


「それじゃあ、お酒も煙草も止めてくれるの?喧嘩もしない?学校もサボらない?女の子と遊んだりしない?」


「……あー。なんか冷静に聞いてると、つくづく最低だな俺」


それから、勢い余って要望をこれでもかと並べると、来夏君は引き攣った顔で遠い目をする。


「認めてもらうには何だってするよ。てか、もう美月以外の女には触れつもりは毛頭ないから。……だから、分かってるよな?」


そして、きっぱりそう断言すると、何やら最後には悪人のような下心満載の妖しい笑みを浮かべてきて。


身の危険を感じた私は来夏君から離れようとした途端、突然彼の手が伸びてきて首筋を甘噛みされてしまい、そこから吸い付くようなキスが降り注いでくる。


「あっ、だめ。跡付いちゃ……。やっ、こんな所で胸触らないで……もう、来夏君のばかぁ!」


まるで獣同然のように、なりふり構わず襲い掛かってくる来夏君。 


この破茶滅茶ぶりは出会った当初から何も変わらずで。


この時の彼の理性は一体何処へ行ってしまうのやら。


というか、以前渚ちゃんから言われた通り、どうしてこうも私の周りには狂った人達ばかりなのか。


それとも、思春期真っ只中の男子高校生とは皆こういうものなのか。


そんな疑問が頭の中をぐるぐると駆け巡る中、尚も止まらない彼の欲求に、今日もまた翻弄されていくのだった。