「……づき、……美月」



遠い遠い意識の中で、誰かが私の名前を必死で叫んでいる。



何故だろう。



それはとても緊迫した声なのに、嬉しいと思ってしまう。


これだけ求めてくれることが、凄く懐かしくて、安心感に包まれて、もう少しだけこの声を聴いていたいと感じてしまうのは変だろうか。






「美月!」



すると、今度は間近ではっきりとその声は響き、私は反射的に目を大きく開く。



「ああ、良かった。あなた、目が覚めたわ」


「そうだな。本当に、良かった……」



そして、最初に視界に飛び込んできたのは涙で顔がぐしゃぐしゃになった母親の顔と、静かに一筋の涙を溢す父親の顔。


普段から感情を表に出す人達ではないので、ここまで取り乱す姿は初めて見た気がして、私は暫しの間面を食らってしまった。



「お父さん、お母さん、ごめんなさい。勝手に家出して……」


とりあえず、こうして意識が戻って、ちゃんと喋れる事が出来るのなら、先ず伝えたい言葉は二人への謝罪。



私は未だ意識が朦朧とする中でも、それだけはしっかりと言いたくて、なんとか口を動かしてみる。



「もういいんだ。今お医者さんを呼ぶから待っていなさい」


そんな私の謝罪に対し、父親は目に涙を浮かべながら小さく首を横に振ると、椅子から立ち上がり足早に病室を出ていった。


それから直ぐにお医者さんと看護師さんが駆けつけてくれて、色々な検査や問診をされ、異常なしと判断された途端、再び母親は泣き崩れた。




「ここに緊急搬送された時は打ちどころが悪くて瀕死状態だったんだ。医者からも生きるか死ぬか二分の一の確率だって言ってたよ」


「そ、そうだったんだ……」


医者が立ち去った後、父親がことの次第を説明してくれた内容があまりにも衝撃的で。

私は暫くの間唖然としてしまった。 


確かに、車と正面衝突すれば死んでもおかしくないかもしれない。


今は鎮痛剤のお陰で痛みは少し軽減されているけど、骨折と全身の打ち身が酷くて自由に身動きが出来ない。



それでも奇跡的に助かったのだから、私の運も捨てたものではないなと。


そんな呑気なことを考えていると、ふとあの時の子供の顔が脳裏に浮かび上がった。





「ねえ、女の子は?無事だったの?」


「安心して。美月のお陰で擦り傷だけで済んだわ。あなたの意識が回復したら、是非ともお礼がしたいって向こうのご両親も涙ながらに言ってたわよ」


すると、ようやく落ち着きを取り戻した母親は、涙を拭いながら笑顔でそう答えてくれて、私はホッと胸を撫で下ろす。