「…………ああ。着いたのか?」



六コール目にしてようや電話に出てくれた来夏君。


声に覇気がないとうことは、間違いなく寝起きだ。


相変わらず期待を裏切らない彼の行動に呆れるも、一先ず電話に出てくれただけでも良しということで。



そう割り切っていると、来夏君の部屋番号が表示されたモニターにロック解除のマークが付き、私はエントランスを抜けて彼の部屋へと向かう。


それから、エレベーターを降りて部屋のインターホンを押すと、程なくしてから寝癖立った上下スウェット姿の来夏君が出てきた。


「あ、あの。ごめんね、こんな朝から押しかけて。……それと、私達の事情に巻き込んで本当にごめんなさい」


来夏君と思いが通じ合ってから、初めての対面だけど、まずは開口一番に謝罪しなくてはと。私は玄関先で深々と頭を下げた。


「あー、そういう堅苦しいのいいから。とりあえず、適当に中入れよ」



やはり、ここは予想通り。


とても面倒くさそうな表情で来夏君は私の謝罪をあしらうと、寝癖だった頭を掻きながら、私を部屋の中へと招き入れてくれた。



部屋の中はこの前と変わらず、余計な物は一切なく、せいぜいソファーに脱ぎ捨てられた上着が転がっているぐらい。


彼の性格上、見栄を張るタイプではなさそうなので、普段から綺麗好きであることに、改めて人は見かけで判断してはいけないと思った今日この頃。



とりあえず、重いボストンバックをソファーの横に置き、私は適当に座ると、来夏君はあの時と同じ、少し甘めに作ってくれたミルク多めのコーヒーを私に差し出してくれた。



「それにしても驚いたな。あんたが家出なんて。随分思い切ったことしたじゃん」


それから、来夏君も私の隣に座り、目覚めのブラックコーヒーを一口飲みながら、悪戯な目をこちらに向けてくる。


「そうだね。なんか、あの場所から逃げたかったし、来夏君にも会いたいし。気付いたら頭の中はここへ来ることしか考えられなくなって……」 



その視線に気恥ずかしさを感じた私は、視線を足下に落として口籠る。


勢いでここまで来てしまったけど、おそらくあと一時間もしないうちに学校から家に連絡が入り、事態は大事になるだろう。


でも、プライドの高い両親だから、おそらく娘が家出したとは言わず、学校には適当に誤魔化すはず。


自分の部屋に”明日には帰る”と置き手紙をしてきたから、警察に通報されることも多分ないと思うし、あとは帰ってから散々怒られるだけ。



明日のことを考えると憂鬱なるけど、何よりも来夏君の側にいたくて。


思うがままに行動してしまったけど、やはり彼にしてみれば迷惑だっただろうか……。


今更ながらに自分の身勝手さを反省し出した私は、なかなか顔を上げる事が出来ず、身を縮こませる。