「それじゃあ、俺は教室戻るね。美月もあまり長居してると遅刻するよ」


すると、亜陽君の方から話は強制的に断ち切られてしまい、私の返事を待たずに颯爽と来た道を引き返していった。


その後ろ姿を呆然と眺めながら、私は昨日言われた彼の言葉を思い出す。



”逃れることは絶対に不可能”


それを証明してきた彼の所業に打ちひしがれ、段々と恐怖が襲ってくる。


もし、亜陽君が来夏君を本気で消そうとしているのなら、停学どころか退学にまで追いやる可能性があるかもしれない。


けど、八神家は業界トップを争う大企業だから、そう簡単にはいかないと思う。


でも、油断は出来ないから彼の行動にはこれからも注視しなくてはいけないけど、私が出来る事なんてたかがしれてる。


結局、こうしたただ見ていることしか出来なくて、これからも私は彼の掌の上で踊らされるだけ。
 



もう、嫌だ。


何もかも全部。 



どんなに抗っても、沼から抜け出せないなんて、そんな世界はもう沢山。


だから、逃げ出したい。  


誰の手も届かないような、自由な場所に私も行きたい。




……それならば。


こっちだって考えがある。


その選択が正しいとは全く思わないけど、今の私に出来る唯一の抵抗は、もうそれしかない。


そう決意を固めると、私は拳を強く握りしめ、ある一つの行動に出ることにした。