え?


ちょっと待って。


来夏君の家って……


どういうこと!?



彼に引っ張られたまま、あれよあれよという間に到着してしまった立派な十階建てマンションの前。


最近建てられたばかりなのか、建物は綺麗で、エントランスはとても広く、窓際には談話スペースのような大きなソファーとテーブルが設置されている。


聞いたところによると、管理人だけではなくコンサルジュも二十四時間常駐しており、オートロックでセキュリティも完備されているんだとか。


そんな高級マンションの最上階角部屋が彼の部屋だそうで、何だかんだ言っても八神グループの御曹司なんだと。

今ここで改めて思い知らされた私は暫くその場で呆然と佇む。


「やっぱり来夏君の家って凄いね。こんなマンションに一人暮らしさせちゃうなんて……」


「俺は別にこんな所じゃなくて、バイトの稼ぎで暮らせる程度でよかったんだけどな。でも、それは許可が降りなかったから、結局親の脛をかじっているだけだ」


すると、来夏君はとても不満そうに嘆くと、鞄からカードキーを取り出し、入り口前の操作盤にそれを差し込ませると、自動的に扉が開いた。


私は相変わらずな独立心の強さに感心しながら、黙って彼の後ろを付いて行くと、エレベーターから降りた先にある突き当たりの部屋の前で来夏君は足を止めた。



何だかんだここまで付いてきてしまったけど、あれから先のことを来夏君の部屋でするって……。



……というか、“先”って何!?



今更ながらに焦燥感が襲ってきた私は、段々と冷や汗が流れ始めてきて、思うように体が動かない。


「どうした?もしかして緊張してるのか?」


「そ、そんなことないよ。お邪魔します!」 


扉を開けてもなかなか中に入ろうとしない私を、来夏君は面白おかしく眺めてきて。


何だか揶揄われているみたいで段々と悔しくなり、私は思いっきり強がりを見せると、勢いのまま部屋の中へと入った。