(ヤバい……こんなに距離近くて心臓ドキドキしてたら、聞こえちゃうかも……)

 鳴り止まない鼓動が聞こえてしまいそうで、映画が始まっても内容に集中出来ない。

 とりあえず落ち着こと烏龍茶を飲んでからポップコーンに手を伸ばすけど、

「!!」

 紫音とポップコーンを取るタイミングが被ってしまったせいで、手がぶつかった。

「あ、悪ぃ」
「う、ううん、平気……」

 それだけのことだから紫音は大して気にしている様子はなくて、そのままポップコーンを掴むとそれを口に運んでいく。

 落ち着かせようとしたはずなのに、余計に高鳴っていく鼓動が煩くて仕方ない。

(……駄目だ、全然映画に集中出来ない……)

 何とかポップコーンを掴んでそれを口の中へ放り込み、とりあえず画面に視線を向けると、

(き、キスシーン……)

 いつの間にか物語は佳境に入っていて、ヒロインが好きな相手に強引に唇を奪われるシーンになっていた。

(恋愛ものって、こういうシーンの時、気まずいな……)

 そんなことを思いつつチラリと横目で紫音を見ると、意外にも真剣な表情で映画を観ていた。

(何か、意外だな……紫音、恋愛もの苦手って言ってた割には真剣に観てる)

 いつも近くに居て、紫音のことは何でも知ってるって思ってたけど、思えば最近の紫音のこと、あんまり知らない気がした。

 小学生や中学生の頃は、よく一緒に馬鹿なことやって先生に叱られたりしてたけど、高校生になってからはそんなことも無くなった。話はするし、時間が合えば登下校も一緒だし、充希とか小、中学校時代の友達を混じえて遊びに行ったりもするけど、お互い年相応になったからか興味の対象が変わってきていて知らないことも増えていた。

(それに、高校生になってからの紫音って、やっぱり格好良くなったよね……)

 長い睫毛、鼻筋もスっと通っていて、顎から首にかけての輪郭がシャープでスッキリしてて、何気にきちんと整えられた眉毛とか、拘り無さそうに見えて骨格に合った髪型してたりとか、そういう、さり気なく身だしなみに気を使ってるところが、格好良さを際立たせているのだと思うと、何が彼をそうさせているのか知りたくなる。