「紫音……今日早くない?」

 日曜日、デートをすることになった私たちは十時に駅前で待ち合わせをしたのだけど、いつも約束の時間ギリギリか遅れて来る紫音が、今日は珍しく私よりも先に来ていた事に驚いた。

「あー、何か早く目覚めたし、一応、デートだろ? こういうのは男の方が早く来てるモンかと思って、早めに来てやった」
「……最後の言葉で全てが台無しなんですけど? まあ、いいや。それじゃ行こっか!」
「どこ行くの?」
「とりあえず、映画観ようと思う! ほら、紫音この前観たい映画あるって言ってたじゃん? それ観ようよ!」
「……俺が観たいの、サイコホラーものなんだけど、乃彩観れんの?」
「え? サイコホラー……?」
「無理だろ? 乃彩が観たいやつでいいよ」
「え? で、でも……」
「いいって。乃彩は何観たいの?」
「……この前公開されたばっかりの、少女マンガの実写版……」
「恋愛もの……」
「紫音、恋愛もの苦手じゃん。だからいいよ、紫音の観たいやつで」
「いや、いい。乃彩の観たいやつで」
「えー?」
「ほら、いいから行くぞ」
「あ、ちょっと、紫音……」

 映画館に行くと決めたものの、観たい映画の好みが合わない私たちは互いの観たいものでいいという押し問答を繰り返した末に、半ば強引に紫音に手を繋がれたことで終わりとなり、五分程歩いた先にある映画館へ辿り着く。

「本当に良かったの?」
「いーよ。それより、何か食う? 俺は飲みもんだけでいいけど」
「えー、ポップコーン食べたい! 紫音も少し食べようよ! ね?」
「……それじゃ、キャラメル味な?」
「うん、いいよ!」

 結局私の観たい映画を観ることになり、チケットを購入した私たちは飲み物とポップコーンを購入して席に着いたのだけど……。

(映画館の座席って、意外と距離近いな……)

 いつも充希や女友達と来ていた時はそんなこと思いもしなかったけれど、紫音と隣同士で座った瞬間、距離の近さに驚いた私の心の中はドキドキと大きな音を立て始めていた。