乃彩(のあ)、見て! 紫音(しおん)ってばまーた告られてるよ」

 昼休み、二階にある教室で親友の充希(みつき)とお弁当を食べていると、何かを見付けた充希が中庭の方を指差しながらそう言った。

「ホントだ」

 いちご牛乳のパックを片手に視線を向けると、同じクラスで小学校からの腐れ縁、斑鳩(いかるが) 紫音(しおん)が下級生の女の子と向かい合っている姿があった。

 勿論話の内容は聞こえないけど、それが告白現場である事は容易に想像がつく。

 女の子の方は俯き加減で酷く緊張している様子だし、紫音の方は何だか面倒そうな表情をしていたから。

「あ、紫音今、絶対断った!」
「だろうね。アイツ恋愛に興味無いもん。あんな冷たい男のどこがいいんだろーね。今まで何人の子が振られてきたことか」
「確かに。しかもさ、紫音って言い方もキツいよね。断るにしてももう少し優しくさぁ」
「だね」

 告白したらしい女の子は軽くお辞儀をすると、一目散に駆けて行ってしまった。

(可哀想に……)

 そんなことを呑気に思いながらそのまま中庭に佇む紫音を見ていると、彼がこちらに顔を向けたので必然的に目が合った。

(覗いてたの、バレちゃった)

 既に充希は席に戻っていて、私だけが告白現場を覗き見していたみたいなこの状況。

 バツが悪くなった私はすぐに視線を逸らして窓から離れていく。

 そして、それから数分後、スマホを弄りながらいちご牛乳を飲んでいると、

「覗き見なんて、悪趣味な奴」
「――あ!?」

 後ろからそんな声が聞こえて来たと思ったら持っていたパックを取り上げられ、

「喉乾いた」
「ちょっと、それ、私の! 自分で買いなさいよね?」
「いーじゃん、別に。少しだけ飲みたいの」
「もうっ!」

 私が飲んでいたいちご牛乳を、喉が渇いたと言って紫音が勝手に飲んでいく。

「ん、サンキュー」
「あー、結構飲んだでしょ?」
「そんな飲んでねーし」

 戻されたパックは先程よりも軽くなっていて、残り僅かな量になっているので抗議するも、大して飲んでないとか嘘をつく紫音。

「覗き見してた罰だよ。悪趣味な乃彩サン」
「別に、見たくて見たんじゃないし! あんな所で告られてる方が悪いっての!」

 くだらない言い合いをしながら、心の中はドキドキしてる。

(……間接キス……なんですけど……)

 飲みかけのパックを手にした私は、その動揺を隠す為に言い合いを続けていた。