紫音とのデートから暫く経った、ある日のこと。

『斑鳩くんと苑田さんがとうとう付き合った』という噂が校内に広まっていた。

 そのお陰で私たちの思惑通り、私も紫音も告白されることが無くなった。

「しっかし、やっぱり効果絶大だよね、二人が付き合ったってなると」
「まあ、あくまでもフリだけどね」
「傍から見たら全然そんな風には見えないから大丈夫よ」
「そ、そうかな?」

 いつものように教室で充希とお昼を食べていた私は周りに聞こえないよう小声でそう口にすると、周りからはフリに見えないから大丈夫と小声で返される。

 それだけ仲が良さそうに見えるのは嬉しいけど、私としてはただの友達と変わらないからつまらない。

 それでも、紫音が女の子から告白されなくなったことは、純粋に嬉しい。断るって分かってても、女の子と一緒に居るところなんて、見たくないから。

 私たちが付き合ったという噂が流れてからは告白されることも無くなり、穏やかな日々が流れていく。

 だけど、私たちの噂が有効なのはあくまでも校内でのことで、紫音はバイト先では変わらずモテているらしく、連絡先を聞かれたり、書いてある紙を渡されたり、日々アピールされることが続いているらしかった。


「なあ乃彩」
「何?」
「お前さ、俺の働いてるコンビニでバイトしねぇ?」
「え?」
「急に一人辞めるみたいで店長困ってんだよね。俺の知り合いならすぐにでも雇いたいって言ってくれてるし、シフトも基本俺と同じにしてくれるって。だから仕事も教えてやれるし、乃彩もバイトしたいって言ってたろ?」
「本当に!? やりたい!」
「じゃ、急だけど明日、一緒に来れる? 一応履歴書は持って来て欲しいって」
「うん、大丈夫! 嬉しいなぁ、紫音が一緒なら安心だし、お金も欲しかったから!」

 そろそろバイトでもしたいと思っていた矢先に紫音から貰った話はとても魅力的で、私は悩みもせずに「やりたい」と返したのは良かったのだけど、同じバイト先になったら紫音がモテているところを嫌でも見なければならない事に、この時は気付いていなかった。