紫音と居ると、一日があっという間に過ぎていく。ショッピングの後はファストフード店でひと休みして、駅ビルを出る頃にはすっかり暗くなっていた。

「あー楽しかった! ねぇねぇ、たまにはまたこういう風にデート、しよ?」
「そうだな。一応、付き合ってる設定だしな」
「そうそう!」

 話をしながら徒歩で帰る私たち。

 駅から自宅までは歩いて十五分ちょいの距離。

 家に少し近付くたび、楽しい時間がもう終わるという淋しさが込み上げ、だんだん悲しくなってくる。

(まだ、離れたくないな……)

 そして、住宅街を少し歩いた先のY字路に差し掛かる。

 私の家はこの道を左で、紫音の家は右方向にある為、必然的にここで別れることになる。

「紫音、今日は楽しかった! お昼もご馳走様! それじゃ、また明日ね!」

 悲しい気持ちを隠し、今日は楽しかったということを告げた私が家の方へ歩いて行こうと足を一歩踏み出した、その時、「送る」と口にした紫音が再び私の隣に立った。

「え? でも、紫音の家はあっちじゃん。家まで来たら戻ることになるよ?」
「いいんだよ。今日はデート、だろ? それに、もう暗いから一人は危ねぇって。送るついでに漫画も今日借りてく。行くぞ」
「あ、紫音! 待って……」

 紫音のその言動は、凄く凄く嬉しい。

(心配……してくれてる……)

 こんな風に女の子扱いしてもらえるのなら、嘘でも『恋人同士』なのは嬉しいと思いながら、あと少し一緒に居られることに喜びを感じていた。

「送ってくれてありがとう。漫画、重くない?」
「へーき。それじゃ、またな」
「うん、またね。気をつけて帰ってね!」
「ああ」

 くるりと身を翻した紫音は、手をヒラヒラと振りながら来た道を戻って行く。

 そんな彼の後ろ姿を見送りつつ、想いが届けばいいのにと願いながら、「紫音、大好き……」と小さく呟いた。