「稀血、知らない? 陽奈ちゃん、ほんとにかわいーね」
「な、なんなの、それ。私が稀血だったら何?」
「稀血は俺らヴァンパイアにとってのごちそう。すっごくおいしい血のことね。で、君がその稀血って聞いてたの。けど違った。なんか混ざったみたいな味するし」
ーー聞いてたって、誰から?
そう思いはしたけど、その疑問は私にとって重要じゃない。
「つまり私の血が飲みたかったけど、もう用無しってことでしょ? それなら解放してよ!」
「……いや、待って。陽奈ちゃんさぁ、最近、怪我とかした?」
怪我といえば、樹莉ちゃんにやられた傷がある。
けれどそれを正直に話すことで、どれだけのリスクがあるかわからない。
「……教えない」
「じゃあ、単刀直入に言おっか。血が混ざるようなこと、した? 輸血とかね」
「……あ……」
ふと考えてーーいろんなことに納得がいった。
紫月に会ったばかりのときも、他のヴァンパイアにも、『うまそうな匂いがする』と言われたこと。
病院で輸血を受けてから、他のヴァンパイアに襲われていないこと。
つまり、私は元は稀血というやつで、それが輸血によって失われたのだろう。
「当たり? 当たりなんでしょ。だとしたらーー余計、ムカつくよ」
陸君がソファの背もたれを掴んだ手に力を込めているのがわかる。
手の甲には筋が浮かび、ソファはぎりぎりと軋む音を立てている。
「あいつがやったの? せっかくの稀血を? 意味わかんねー……」
「……と、とにかく、もう稀血じゃないんだから、いいでしょ? 私、帰りたいの」
ぶつぶつと呟く陸君に言うと、陸君はハッとしたように、起き上がった私の肩を掴んだ。
「ムカつくからさぁ、陽奈ちゃんにひどいことしちゃおっか!」



